コロナ禍が生んだ新取引形態 行き場失う高級魚救うマッチングサービスとは?
少量でも購入可 産地とスーパーをマッチング
国内での水産品の消費量は年々、減少するばかり。食べやすい処理がされていなければ、活きのよい魚が食卓に上ることもめったにない。そうした時代を考えると、BtoCのECサイトだけでは、自ずと限界が見えてくる。いっときの応援にはなっても、これだけで水産事業者の厳しい状況を変えられるものではない。
STAY HOME、リモートワーク、外出制限、巣ごもり消費……。当初こそ、新鮮に感じられたものの、ひと月もするかしないかのうちに、鮮魚の充実している食品スーパー(SM)店頭では、「ノドグロが食べたい」「ヒラメの大きいのはないか」といったお客さんからの声が聞こえてくるようになったという。
こうした消費者の声に応じるべくサービス提供が始まったのが、産地と食品スーパーがずっとつながるスマホアプリ「みらいマルシェ」(運営:みらいマルシェ/東京都)の「アンテナ」機能だ。
みらいマルシェは、全国の産地と食品スーパーが、漁獲/収穫量、商品の状態や相場などの情報を素早く共有し、両社が効果的な取引を実現するための法人向けのアプリで、これまでのところ水産品であれば、長崎、境港、松江、鳴門など、全国の産地仲買いや漁協(約35社)と、ローカルSM約40社・150店舗の間で取引が行われている。
アンテナ機能というのは、たとえば仕入側(SM)が利用する場合、「大きめのノドグロを探している。600gから1㎏ぐらいの取扱いがあれば、相場も教えてほしい」という具合に、「取り扱いたい鮮魚・青果の条件(種類・サイズ・数量など)」を全国の産地へ一斉発信し、各地から条件に合った提案を受けることができる。売り手側(産地の卸や仲買人、漁協など)が利用する際には、入荷予定や今後販売したい鮮魚・青果の情報を全国のSMへ一斉発信し、提案前に需要を把握できる。
SMは産地からの情報をリアルタイムで確認できるうえ、1ケースなど少量単位での注文が可能。市場便(全国各地の市場同士を行き来する配送便)を利用するため、水揚げの翌朝には店舗に並べることもできる。みらいマルシェでの取引に数%の手数料がかかるが、取引時に表示される価格に含まれているので、それが上代価格と考えればよい。
現在、アンテナ機能でSM側から産地にリクエストして、コロナ禍で行き場を失った高級魚を仕入れ、鮮魚売り場に新たな魅力を加えている店舗は着実に増えてきている。中国地方でSMを展開するエブリイ(広島県/岡崎浩樹社長)では、長崎県産のノドグロ、クエ、ヒラメ、伊勢海老などを仕入れ、顧客から喜ばれたという。
こうしたコロナ禍で新たに生まれた取引形態、取引チャネルは今後、ニューノーマルとして定着していくのだろうか。
「市場での取引のみをされていた仲買さんの中にも、リスク管理の販路として、BtoC、BtoBtoCのECのありがたみを感じた方が出てきたようだ」(みらいマルシェ・広報)
もちろんSMとしても、売場でのお客の声をダイレクトに産地に届けて、それを反映した売場づくりが実現できれば、定番ものが中心になりがちな鮮魚売場での差別化も容易になる。
いずれにしても、いち早く、自分たちの日常のものにすることが、生産者、販売者(SM)にとって、利をもたらすことになるのは明らかだ。