全国80万の飲食店が「メディア」に? ぐるなび×エプソンが手掛ける「ミセメディア」の可能性

堀尾大悟

「フィルターバブル現象」で新商品の訴求が困難に

エプソン販売 ビジネス・ディベロップメント
エプソン販売 ビジネス・ディベロップメントの小西恵理子氏

 加えて、食品メーカーや飲料メーカーなどの法人営業を担当する西本氏は、もう一つの課題を抱えていた。「一生懸命作った商品のストーリーやこだわりが、従来の広告手法では消費者に伝わりにくい、との各メーカーの声を聞いていた」

 今日、広告宣伝やマーケティングの主軸はマスメディアからWebやSNSへも広がりつつある。消費者はInstagramやXなどを活用して商品名を検索し、情報を得るようになっている。その過程で興味のある情報だけを選別し、それ以外の情報を無意識のうちに遮断する「フィルターバブル現象」が顕著となっている。各メーカーにとっては新しい商品・サービスの消費者へのリーチがしにくくなっているのだ。

 飲食店側が抱える課題と、メーカー側が抱える課題。その両者を同時に解決するアイデアとして、西本氏は飲食店という「場」に着目した。人が集まり、食事し、語らう空間を「メディア」として活用することで、飲食店には広告収入を、メーカーには新たなプロモーション機会を提供できないか――。

 近年、大手コンビニチェーン各社では店内にデジタルサイネージを設置し、商品などの広告配信に力を入れている。ほかにもタクシーやドラッグストアなど、至るところで店や車内といった空間が「メディア化」されている。ところが、飲食店についてはタッチパネルなどタブレット端末を活用した広告配信はあるものの、ディスプレイやサイネージを設置して広告配信する例はなかった。個人経営の店舗が多く、画一的な事業展開がしにくいことなどが理由として考えられる。

 しかし、飲食店には他の商業空間と大きく異なる、メディアとしての優位性がある。

 来店客の滞在時間は平均120分と、ドラッグストア(15分)、タクシー(16分)(ぐるなび、エプソン販売ミセメディア資料より)と比べて圧倒的に長い。また、多くの場合2人以上の複数人で利用するため、「お茶の間のテレビ」のように視聴した情報が話題に上りやすい。ここに、メディア事業の可能性があると西本氏は考えた。

 一方、エプソン販売 ビジネス・ディベロップメントの小西恵理子氏は、「当社としても、モノを売るだけでなくモノを活用した『コト』を価値として届ける新規事業に取り組んでいた。その中で、飲食店をテーマに活動を続けており、飲食店を場としてとらえたアイデアも出ていた」。そうした中、両社がアイデアを持ち寄り、意気投合し、「五感に響くメディア」のコンセプトが生まれた。西本氏も小西氏も、「検討を進める中で飲食店を対象とした新たながビジネスの可能性を強く感じ、開発に至った」と口をそろえて言う。

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