本格到来!? 小売業のクラウド活用

2017/09/15 11:30
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新店POS導入費用を削減、各店舗のストコンも廃止

 サッポロドラッグストアーはPOSシステムをクラウド化したことで、エゾカ導入という当初の目的を果たした。エゾカの加盟店は約100社に上り、道民の4人に1人が保有するカードに成長している。

 

 一方で、新しいPOSシステムは自社のITコスト削減ももたらした。コストを削減した分野は大きく2つある。

 

 1つは、新店のPOSシステム導入コストである。多くのPOSレジはハードウエアとアプリケーションが一体で販売されている。そのため、いったんあるメーカーのPOSレジを導入すると、たいていは新しくPOSレジを導入する際そのメーカーの製品を導入せざるをえない。それが、POSアプリケーションを自社開発しハードウエアとアプリケーションを分離したことによって、「ハードウエア間の競争が起きた」(小野寺氏)。既存のPOSメーカーへの依存度が低下するとともに、使用しない付属のアプリケーションのライセンス料も不要になった。その結果、新店のPOSシステム導入コストは44%削減された。

 

 もう1つは、サーバーの保守コストである。クラウド化し売上データをリアルタイム処理にしたことで、日々の売上データを蓄積していた各店舗のストアコントローラー(ストコン)が不要になり、初期費用・保守費用が削減された。また、オンプレミスのサーバーは5年ごとの更新や店舗数増加への対応も不要となった。これらにより、サーバーの保守コストは50%削減された。こうしたコスト削減以外にも、POSシステムのクラウド化はさまざまなメリットをもたらしている。

 

 たとえば、レシート単位での売上データのリアルタイム処理である。従来、各店舗の売上データはPOSレジからその店舗のストコンにいったん蓄積され、夜間バッチ処理で本部のサーバーに送られていた。これが、POSレジでレシートが発行されるたびに、それがクラウド上のシステムで集計される。その結果、独自開発したポータルサイトで、ほぼリアルタイムで各店舗の売上を把握できるようになった。

 

 また従来、マスターデータを更新したりPOSアプリケーションを改修したりする場合、遠隔操作によって各店舗のサーバーに入り、1台ずつ設定作業を行っていた。これが、クラウドを通じて一括して更新できるようになり、POSシステムの運用面でも効率化をもたらした。

 

 このほか、パースとしてのクラウド利用で、データ処理量が急増する年末年始の繁忙期にも、簡単な操作でキャパシティを拡張できるようになった。小野寺氏が「クラウドの醍醐味の1つ」と言うメリットである。

 

 新しいPOSシステムはこうしたメリットをもたらしたが、稼働後に問題がなかったわけではない。サッポロドラッグストアーが利用しているクラウド・サービスでは、複数の利用者がデータベースのリソースを共用しており、特定の利用者が大量にリソースを使った場合にデータを更新できなくなってしまうことがあった。その際、数秒後にリトライして対応する必要があったという。ただし現在は、自動リトライするなどクラウド独特の仕様に寄り添うことにより、こうした問題は解消されている。

 

受発注もクラウド化へ、在庫もリアルタイムで把握

 POSシステムをクラウド化したサッポロドラッグストアーが次にめざしているのが、受発注システムのクラウド化である。

 

 すでに、受発注や在庫のシステムのクラウド化に取り組んでおり、来春の稼働をめざしている。クラウド化によりリアルタイムで受発注データが把握できるようになれば、売上データのリアルタイム集計と組み合わせてリアルタイムの在庫管理も可能になる。同社はEC(ネット通販)サイトを運営しており、店舗とECを融合するオムニチャネル化をめざすうえで重要な在庫の一元管理も実現できる。これにより新たな経営戦略にも柔軟に対応できる基盤が整うことになる。

 

 情報系システムでクラウド・サービスを利用する小売業は多いが、基幹業務システムではセキュリティや信頼性の面での不安から、二の足を踏む小売業が多い。だが、サッポロドラッグストアーはPOSシステム刷新の経験を生かし、基幹業務システムのクラウド化にチャレンジする。

 

 さらに、クラウド化で得た知見・ノウハウを生かし、新たな事業にも乗り出している。親会社のサツドラホールディングスが66%、4Uが34%を出資し今年5月、小売業・飲食業のデジタル化を支援するGRIT WORKS(グリット・ワークス)を設立した。

 

 新会社は、サッポロドラッグストアーやほかの小売業・飲食業の基幹業務システム開発、POSシステムの販売、クラウド技術コンサルティングなどを手がける。またサツドラホールディングス子会社のAI TOKYO LABのAI(人工知能)研究・開発と協業することによる小売業・飲食業へのさらなる価値提案をめざしている。POSシステムのクラウド化から始まったサッポロドラッグストアーのIT改革は新たな広がりを見せ始めている。

 

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