地方部の配送網と全米の拠点整備に190億ドル投資! アマゾンが仕掛ける物流戦略とは
米アマゾン(Amazon.com)は、物流ネットワークの強化を軸に、大型投資策を相次いで打ち出している。1つは、米国の地方部における配送網拡充に向けた40億ドル(約6000億円)超の投資計画。もう1つは、それを補完するかたちで全国80カ所におよぶ物流施設を新設する、総額150億ドル(約2兆2000億円)規模の拠点拡張構想である。いずれも2026年末にかけて段階的に展開される見通しで、同社の競争力強化に向けた戦略的布石といえる。
※1ドル=145円で換算

「逆張り戦略」で地方部の配送網を3倍に拡大!
アマゾンがまず注力するのは、これまで十分に対応しきれていなかった米国の地方部である。近年、競合他社が採算性の低さを理由に撤退しつつあるなか、あえてこの市場に踏み込む「逆張り戦略」をとる。26年末までに40億ドル(約6000億円)超を投じ、地方部向け配送ネットワークを現在の3倍規模に拡大する計画だ。
この投資では、新たに200以上のデリバリーステーション(宅配ステーション)を設置。年間10億個以上の追加配送を可能にし、平均配達時間の半減をめざす。都市部と比較して遅れがちだった配送体制を刷新することで、「プライム」会員が地方でも迅速なサービスを享受できるようにする。
そのねらいは、地方における新規顧客の獲得と、既存プライム会員の満足度向上だ。3億点以上におよぶ商品ラインアップへのアクセスを改善することで、都市部とのサービス格差を解消し、地方に眠る買物需要を掘り起こす構えである。
アマゾンはこれを実現するため、自社配送網の拡充に加え、中小企業が配送を請け負う「デリバリー・サービス・パートナー(DSP)」、個人事業主が自身の車両で配達する「アマゾン・フレックス(Amazon Flex)」、地域の小規模店舗を配達拠点とする「ハブ・デリバリー(Hub Delivery)」といった多様なパートナーシップを活用し、ラストマイル配送の柔軟性と効率性を高めている。
米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は24年、アマゾンが契約ドライバーや小規模店舗の活用を拡大し、米郵政公社(USPS)への配達委託を減らす動きを強めていると報じた。アマゾン自身も、こうした投資を通じて、地方部の住民が3億点以上の幅広い品ぞろえの商品を、より迅速かつ便利に受け取れるようになるとしており、従来の配送構造の再定義に踏み出している。
150億ドル規模の倉庫拡張を検討
アマゾンは、全米の都市部および地方部を網羅するかたちで、約80カ所の新たな物流施設の建設を検討しており、総額150億ドル規模に上る倉庫拡張計画を進めている模様だ。米ブルームバーグ通信によれば、この計画には、多数のロボットを導入した大規模多層階のフルフィルメントセンターも含まれる見通しであり、EC市場の再活性化や配送のさらなる迅速化といった成長戦略の一環として位置づけられている。
その一方で、今回の施設開発では資金調達手法に大きな方針転換が見られる。特筆すべきは、外部の資本パートナーを募り、施設完成後にアマゾンが15年から25年の長期契約で賃借する方式を検討している点だ。これは、新型コロナウイルスのパンデミック時に、自社投資によって過剰な倉庫スペースを抱えたという教訓を踏まえたものであり、初期投資や開発リスクを外部に委ねる戦略に再び舵を切る動きと言える。
この背景には、産業用不動産市場における供給過多という外部環境もある。米国の産業用不動産の空室率は新規供給の増加と需要の鈍化により、14年以来の高水準に上昇している。アマゾンにとっては、これを有利な条件で拠点を確保できる好機と捉えている可能性がある。
こうしたなか、英ロイター通信によれば、アマゾンの広報担当者はこの計画について「現在協議中で最終決定ではない」とコメントしており、計画がまだ初期段階にあることを示唆する慎重な姿勢を見せている。
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