家の中まで届けるウォルマートのインホーム・デリバリー、安心感を生み出すテクノロジーの正体
コロナ禍による生活様式の変化や、ECによる日配品の購入が拡大する中、米国大手小売チェーンのウォルマート(Walmart)では、ラストワンマイルの“最終形”ともいえる会員制サービスを展開している。それが、消費者が在宅または留守に関わらず、オンライン注文上で指定されたガレージや冷蔵庫まで生鮮品を届ける「インホーム・デリバリー(InHome Delivery))」である。本稿では「プライベートな空間に配達者が足を踏み入れる」という不安を各種テクノロジーで解消し、利用者数をじわじわと拡大している同サービスの概要について説明する。
「BOPIS」を代替する「BOPA」とは
コロナ禍における米国ではオンラインでの日用品購入が急速に伸びた。それと同時に、「パッケージシーブス(Package thieves:小包泥棒)」、また「ポーチパイレーツ(porch pirates:置き配泥棒)」と言われる盗難事件も相次いだ。
2021年は4900万人以上の米国人が盗難被害を報告しており、その額は合計24億ドル(3600億円:1ドル=150円で換算、以下同)にも上るといわれている。消費者がオンライン購入におけるメリットを享受しながらも盗難被害という壁に直面したこと、また電子商取引の進展に伴い、小売各社はBOPIS(Buy Online Pick-up In Store :オンライン購入店頭受取)の代替配送として「BOPA(Buy Online Pickup Anywhere:オンライン購入で、どこでも受け取れる)」を提供し始めている。
このような流れからウォルマートでも、インホーム・デリバリーサービスを2019年10月15日より米国の3都市に住む「ウォルマート・ドットコム」の会員約100万人を対象に実験的にスタートした。独自の会員プログラムとして運営されていた同サービスだが、2022年7月からはコロナ禍の新たなサービスとして①日用品や食料品の無料配送、②ガソリンの値引き、③パラマウント+のビデオストリーミング、④無制限の無料宅配、⑤モバイルスキャン&ゴー(無接触購入システム)、⑥その他の会員特別プロモーションなど6つの特典が提供されるサブスクリプション(定額課金)サービスである「ウォルマート+(プラス)」のオプションとして統合された。
ラストワンマイル配達の満足度向上へ
同サービスはこれまで、カンザスシティやピッツバーグ、ヴェロビーチなどの600万世帯を対象にテストを実施していたが、今後は対象地域をダラスやLA、シカゴ、ヒューストンなど主要市場にも順次拡大し、22年末までに対象世帯を国内3000万世帯に拡大することを目標としている。
この拡大に伴い、同社は3000人以上の配達ドライバーの雇用を計画しており、同サービスの配達スタッフも増員する。また、BrightDrop社(ゼネラルモーターズの子会社で配送用電気自動車などのコネクテッド製品システムを提供する企業)との提携により配送車にEVを使用することも計画している。
このようにBOPAのオプションを増やす事で、顧客の配達待ち時間の削減、生鮮食品の損傷を防ぐ適切な配送、グリーンな配送網の構築、荷物の盗難予防が実現でき、購入者のラストマイル配達の満足度をより向上させる一つの施策として注目されている。