セブン&アイ22年度決算&戦略分析! 売上高11兆円超も株主対応に懸念、突破口は?

DCS編集部決算分析班
棚橋 慶次
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今後の事業戦略は……

 当然、セブン&アイの経営陣もそのことは認識している。同日に発表した経営・事業戦略においては、全体戦略で2030年に目指すグループ像として、新たに「食を中心とした」と言う文言を付け加え、「『食』を中心とした世界トップクラスのリテールグループ」として、個別事業における粗利益の改善、低収益事業の構造改革に力点を置いている。

 特に首都圏に集中するスーパーストア事業の持つ調達力やサプライヤーネットワーク、そして現在整備を進めているインフラを活用することで、スーパーストア事業だけでなく国内外コンビニ事業の成長につながることを明言。スーパーストア事業がセブン&アイの成長戦略、競争優位性確保に必要不可欠であることを改めて強調し、投資を進めている。

 こうしたことを軸に、国内コンビニ事業では新規ビジネスの急拡大により25年度までに営業利益を3000億円規模に拡大する一方、スーパーストア事業においては売上規模こそシュリンクするものの、25年度までに850億円以上の利益(EBITDA)を確保し、5%を超えるEBITDAマージンへと引き上げる戦略を発表している。

 ただしこの戦略は、まだこの高収益を実現できるであろう具体的な成功パターンが見えているわけではない。はっきりしているのは祖業である衣料品部門から完全撤退するとともに、中核であるイトーヨーカ堂で全店の4分の1に相当する33店の閉鎖を決めたぐらいだ。

業を煮やす「物言う株主」

 業績に並んで決算説明会で注目を集めたのが、アクティビストとして知られるバリューアクト・キャピタル(以下、バリューアクト)が突きつけた質問状への回答だった。バリューアクトは、2010年5月からセブン&アイ株式を取得。2022年8月末時点でセブン&アイ株式の1.9%を保有する大株主となっている。

 決算発表に先立つ4月3日、バリューアクトはセブン&アイに対し質問状を送っている。質問状の中で、バリューアクトは不採算事業の分離をはじめとした9つの質問を提示し、6日の決算発表において回答するように要求していた。

 さらにバリューアクトは、セブン&アイが3月9日に発表した事業構造改革プランに対しても、「現状踏襲に過ぎず、株主・投資家は失望し混乱した」と手厳しい評価を下している。つまり、セブン&アイの経営計画は、バリューアクトが求めてきた「コンビニ事業への選択と集中」に対する答えになっていないというわけだ。

 もともとバリューアクトは、「物言う株主」の中では比較的穏健派とされてきた。ビルゲイツが去った後に株価が低迷していたマイクロソフト(Microsoft)の経営改革にかかわり、株価回復と業績向上に寄与した実績を持つ。自ら取締役を派遣し、経営陣と一緒になって汗をかくスタンスは、会社側・投資家の双方から一定の評価を得ている。

 そのバリューアクトが、セブン&アイの態度に業を煮やしている。われわれ日本人から見れば評価できそうな経営戦略も、海外投資家には“ぬるい”と感じるのかもしれない。経営陣の交代をも要求するなど、対決姿勢を隠さなくなってきた。

 決算説明会においてセブン&アイ側は、バリューアクトに要求に対し「4月中旬までには何らかの対応を示す」として回答を留保している。ただ、バリューアクトが要求するようにコンビニ事業に集中したとして、バラ色の未来が待っているのだろうか。仮にスーパーストア事業を分離したとしても、営業収益営業利益率は0.56ポイント(4.59→5.15%)アップするに過ぎないし、イトーヨーカ堂とのパートナーシップによってセブン&アイ側が描く国内コンビニ事業の大幅な営業利益積み増しも見込めないことになる。

 セブン&アイのブレイクスルーはまさに、3月に同グループが発表した新業態「SIPストア」のような新しい取り組みがカギを握っていると言えるだろう。また、スーパーストア事業の収益改革が本当に実現できることを1日も早く示すしかない。これまでもそうだったが、何よりもスピードが要求されそうだ。

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