輸入牛の価格高騰、コロナ禍で起きている「ミートショック」の深層
原油価格の高騰やサプライチェーンの分断、それに伴う原材料の高騰――多くの食料品で値上げが著しい昨今、特に影響が大きいのは「輸入牛肉」だ。アメリカ産のショートプレート(バラ肉)の卸売価格は2022年1月時点で1キロあたり1047円。前年同期の687円から52.4%価格が上昇している。さらに、懸念されるのは卸売価格の「高止まり」である。21年4月からショートプレートは1キロあたり1000円以上で推移している。こうした「ミートショック」は、いつまで続くのか、その背景には何があるのか。30年以上コモディティ市場を見てきた資源食糧問題研究所の柴田明夫氏による解説をお届けする(談・文責編集部)
輸入牛は中国に対する「買い負け」が起きている
輸入牛の高騰に関しては、「供給」と「需要」の両面から分析する必要がある。
「供給」サイドに関しては、日本は輸入牛をアメリカとオーストラリアから全体の約86%を輸入している。特にアメリカにおいてはコロナの影響で海上運賃の上昇やコンテナ・トラック関連の労働者不足、畜産業での人手不足など根詰まりが起きている。アフターコロナの社会で旺盛になってきた国内需要に応えるためにも、アメリカは全体的に輸出量を調整している印象を受ける。
オーストラリアについては、18~19年にかけての干ばつの影響で肉牛の飼養頭数が減少。21年には2393万頭と、ピーク時の13年(2929万頭)に比べると約19%減少している。結果として、日本への牛肉の輸出量は、20年度は24万3000トンと前年より約15%減少、冷凍のチャックロール(日本では肩ロース)の卸売価格は2022年1月において1キロあたり1120円(対前年同期比17%増)と価格が上昇した。
※卸売価格、牛飼養頭数は農畜産業振興機構より引用
一方「需要」サイドでみると、中国に対する「買い負け」が起きている。高度大衆消費社会になった中国では牛肉を日常的に食べる文化が定着。国内生産量だけで賄いきれず、近年は世界からの輸入量も急速に増やしている。(20年の輸入量は約166万トン、17年は約70万トン※農業産業振興機構より)
中国に「買い負け」ているポイントは大きく3つ。1つ目は、「値段」の買い負け。文字通り、中国の輸入商社がより高い値段を払って買うことによる買い負けである。2つ目は、中国は牛の「一頭買い」をすること。日本では部位ごとに牛を仕入れるが、中国は一頭丸々買うことが多い。コロナ禍で人手不足に悩まされる米・豪の畜産業者が細かい注文の少ない中国の業者からの注文を優先したのは想像に難くない。
3つ目は、「買いのタイミング」を逸したことだ。輸入牛の価格は過去5年間、一定の水準で推移していて、2021年4月から始まったミートショックに対しても「いつかは下がるだろう」と楽観視する向きもあった。ところが今回は価格が一向に下がらない。そのため、買うタイミングを逸したのだろう。