”缶詰博士”に聞いた、缶詰の最新トレンドと成長可能性とは?
メーカー以外の企業も缶詰に熱視線
販売チャネルの拡大もトレンドの1つだ。メーカーは近年、自社サイトやAmazonなどのオンラインチャネルでの販売を強化している。また、メーカー以外の事業者による缶詰販売も活発化している。
たとえば、缶詰と酒類を楽しめる店として全国に店舗展開するクリーン・ブラザーズ(大阪府)の缶詰バー「mr.kanso(ミスターカンソ)」は、店舗での販売を行っている。さらに同社は、メーカーとのコラボレーションによるオリジナル缶詰の製造・販売にも取り組んでいる。
オンライン販売の多様化も進んでおり、現代経営技術研究所(東京都)は、オンラインプラットフォーム「subsc(サブスク)」を通じて、300種類の缶詰の中からバイヤーが毎月4~6缶を厳選して届けるサブスクリプションサービスを展開している。
小売各社でもメーカーとの共同開発による商品づくりが進んでいる。たとえば、日本百貨店(東京都)や、「自然食品F&F」を運営するエフアンドエフシステム(東京都)など、小売5社が連携する「みんなの食プロジェクト」では、地域の特産品を生かしたオリジナル缶詰の開発に取り組んでいる。伝統的な製法を用いた「SABA缶 木桶仕込み八丁味噌&八丁味噌(190g)」(税込398円)はその一例で、22年度のグッドデザイン賞を受賞している。
ハラル認証やエコラベルへの対応も重要に
黒川氏は、近年の缶詰を取り巻く市場環境について、「魚や果物は世界的に原材料が不足しており、新商品の開発が難しい状況にある。春や秋のメーカー発表会でも、既存商品のリニューアルが目立つ」と指摘する。
さらに、原材料不足は価格面にも大きな影響を及ぼしている。缶詰業界も他の食品業界と同様に、原材料費および人件費の高騰を受け、価格改定を余儀なくされている。たとえば、鯖缶のプレミアムブランドとして有名なマルハニチロ(東京都)の「月花」シリーズは、20年時点で200円(税別)だったが、24年には338円(同)まで価格が上昇した。トップメーカーによる価格改定に他社が追随する構図となっており、業界全体での価格上昇が進んでいる。

価格上昇が進む状況下でも、付加価値を高める商品開発を行う動きがある。明治屋(東京都)は、果実の缶詰において「甘さ控えめ」を打ち出した新商品を展開している。厳選した果物を使用し、甘さを抑えた果汁入りシロップで仕上げた「すっきりとした甘さ 果汁入りフルーツ缶詰(バレンシアオレンジ/イエローピーチ/ミックスフルーツ)」(各190g 同350円)を販売し、好評を得ているという。
最後に、黒川氏は缶詰市場の今後について「ハラル認証を受けた商品は、イスラム教徒でも安心して食べられるだけでなく、宗教上の制限がない人にとっても品質の安心感につながるケースがあり、今後、訪日外国人が増える中で一定の需要拡大が見込まれる。また、欧州では環境配慮を示すエコラベル付き製品の人気が高く、日本でもこうした取り組みが進めば、環境意識の高い層からの支持が得られる可能性がある」と話す。
ハラル認証やエコラベルの導入は、いずれも特定のニーズに応える形で市場の裾野が広がるだろう。日本の缶詰メーカーにとっても、こうした国際的な基準への対応は、輸出拡大や新たな消費者層の獲得につながる重要な取り組みとなるだろう。今後さらに多様化が進む消費者ニーズに、どのような形で応えていくのか注目したい。








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