モスフードサービス(東京都)は、外食産業を危機に追い込んだコロナ禍でも、既存店売上高が前年比プラス基調を続けるなど、業績が堅調に推移している。その背景には、キッチンカーの導入、ドライブスルーの拡大といった、需要の変化に適応した業態・チャネルの開発があった。一方で、台湾やシンガポール、香港のほか、フィリピン、ベトナムにも進出するなど、海外事業の拡大にも余念がない。中村栄輔社長に、ビジネスの多様化のポイントを聞いた(インタビュー前編はこちら)。
聞き手:阿部幸治(本誌)、構成:野澤正毅
コロナ禍でドライブスルーのニーズが急伸
――「多様化したお客の声を聞く」ために、組織の変更に加え、業態・チャネルの多様化も進めました。
中村 チェーンストアのセオリーからすれば、業態・チャネルが増えると、運営効率は下がってしまうわけですが、「マーケットイン」の発想に立ち返れば、店舗開発でまず考えるべきは、「どのような業態・チャネルが、お客さまにとって便利か」ということ。そうでなければ、お客さまに支持されません。要は、集客力や売上と、販売効率、コストとのバランスです。
――標準タイプの「モスバーガー」や「モスバーガー&カフェ」、レストランタイプの「モスプレミアム」のほかにも、新しい業態・チャネルが続々と登場しています。
中村 ハンバーガーショップのほかにも、紅茶専門店「マザーリーフ」、パスタ専門店「ミアクッチーナ」、和食レストラン「あえん」といった、外食のさまざまな業態にチャレンジしています。新しいチャネルとしては、2021年度からスタートした移動販売の「MOS50」や、11月の広尾にオープンしたチーズバーガー専門店「mosh Grab’nGo(モッシュグラブアンドゴー)」に力を入れています。
また、コロナ禍で伸びているのがテイクアウトです。消費税の軽減税率が適用されることで持ち帰りの需要が高まると考え、コロナ発生前から宅配の強化や持ち帰りを前提とした商品やテイクアウトボックスなどの改良に取り組んでいました。
テイクアウト専門店業態の試みもスタート
――モスフードはコロナ禍で客単価が増えた一方、客数もそれほど減っていません。テイクアウトといったチャネルの多様化が、奏功したと見て良いですか。
中村 多様化はリスクヘッジという点で生き残り戦略としても重要ですが、コロナ禍で真価を発揮したということでしょう。当社にとって、コロナ禍は大きな打撃になりませんでした。イートイン中心の都市型店舗やフードコート店舗は苦戦しましたが、テイクアウトや宅配を推進することで、店内飲食の減少をカバーしました。また、コロナ前でも既存店プラスの基調は維持していたので、商品力の底上げなども奏功したと見ています。
――コロナ禍も沈静化しつつあり、抑制していた出店を積極化する方針です。
中村 2022~2024年の新中期経営計画では、毎年50店舗の出店を目指しています。立地別では今のところ、ドライブスルー、ビルイン、フードコートのウエートに大きな変化はないと見込んでいます。リモートワークの普及を背景に需要が減った都市型のビルイン向けには、機動的に空きスペースに開設できて小回りが利く25坪の小型タイプの開発を進めています。
ニーズが高まっているテイクアウトでは、2020年8月から専門店業態をテストしています。一方で、コロナ禍で中断していましたが、「店内でゆったり過ごしたい」というニーズも根強いので、カフェタイプの出店も再開しています。
ベトナムにも進出、伸び盛りの東アジアが標的
――海外進出にも熱心です。少子高齢化が加速している日本では、外食産業も成長の余地は限られます。やはり海外市場にも、目を向けるべきだと考えますか。
中村 国内事業の足元を固めるのが先決ですが、海外事業は今後も強化していく方針です。海外店舗は現在、約450店舗を展開していますが、日本文化と親和性が高く、若年人口が多くて、経済成長も著しい東アジアに集中出店しています。とはいえ、台湾に約300店舗、シンガポールに約50店舗、香港に約40店舗と、特定の国や地域に偏っているので、ほかのアセアン諸国などにも拡大していこうと考えています。コロナ禍で中断していますが、10番目の国と地域としてベトナムへの進出も計画しています。
――海外市場では、どのようにローカライズを進めているのでしょうか。
中村 海外でも、現地のお客さまの声に率直に耳を傾け、商品や店舗を適応させていく、マーケットインの姿勢を堅持しなければなりません。
とはいえ、チャネルの多様性を生かした、日本と海外とのシナジーにも期待しています。例えば、海外店舗は、テストマーケティングにも役立っています。キッチンカーは海外で先行導入しましたし、シンガポールや香港のモスで展開しているセルフレジなども、日本に“逆輸入”したものです。