「メタバース」と聞くと、流通業関係者はどうしても仮想空間上に店舗を構える「バーチャルストア」のようなものをイメージしがちだが、VR(仮想現実)ヘッドセットを使った社内研修をはじめ、メタバースは業種を問わず多くのビジネスシーンで活用され始めている。本稿では、『ダイヤモンド・チェーンストア』編集部(以下、DCS編集部)のメンバーで「メタバースオフィス」サービスを実際に利用した様子をレポートしてみたい。
仮想空間内のオフィスでアバターを操作
今回、DCS編集部が利用したのは、大阪府に本社を置くIT企業OPSIONが提供するメタバースオフィスサービス「RISA(リサ)」だ。同社はRISAの導入を検討する企業に対し、2週間の「無料トライアル」を実施している。この無料トライアルを使って、本特集の取材期間中、2月下旬から3月初旬にかけてDCS編集部に在籍する7人でRISAを利用してみた。
DCS編集部は現在、リモートワークを基本としており、通常、各部員の連絡はビジネスチャットツールの「Slack(スラック)」、オンラインで行う会議はWeb会議サービスの「Zoom(ズーム)」を利用している。トライアル期間中は、この2サービスとあわせてRISAを利用。編集担当の記者1人がRISA上に常駐するほか、週1回開催される全員参加の会議をRISA上で開いた。
最初に、RISAがどのようなサービスか確認しておこう。
「メタバースオフィス」を標榜する同サービスは、ほかのメタバースプラットフォームと同様に「アバター」を使用する。アバターの外見は設定画面から変更することができ、スーツを着用したビジネスパーソン風のものだけでなく、「忍者」「侍」といったユニークなスキンも揃えている。
RISAの基本画面は2D(二次元)のオフィスとなっており、実際のオフィスと同じように各人のデスクが配置されるほか、4~6人が入れるミーティングスペース、8~10人が入室可能な大型会議室、音声が聞こえない「無音ルーム」もある。今回利用したのは推奨利用人数20人(最大30人)のオフィスで、RISA担当者によると推奨利用人数100人の大型オフィスも近日中にリリース予定だという。
ユーザー同士のコミュニケーションは、音声かテキストのチャットで行う。PCのカメラ機能を使ってアバターの顔の部分に自身の映像を写し、動画チャットのように利用することも可能だ。ちなみにRISAはアプリではなく、ブラウザでアクセスするため、常駐する場合は常にブラウザのタブ、あるいはウィンドウでRISAを開いている必要がある。
ユーザーは、クリックでアバターを動かしてそれぞれのスペースに移動する。特徴的なのは、会議室のようなクローズドなスペースに入ると、外にいる人には会話が聞こえないという点だ。逆に、オープンなスペースでの会話はオフィス内の全員に聞こえるため、実際にオフィスで人が働いているときの「遠くで誰かが会話しているざわめき」が感じられる。
社内コミュニケーションの活性化に効果あり?
画像は実際に編集部の会議を行っている様子をスクリーンショットしたもの。7人で会議を行ったところ、音声は非常にクリアで、映像の遅延や途切れが発生することもなかった。
2週間利用して感じたメタバースオフィスの利点は、オフィスで人が働いている様子を可視化できるという点だ。画像にあるとおり、RISAはログインした瞬間に「誰がどこにいるか(≒何をしているか)」がひと目でわかる。そのため、「○○さんがデスクにいるから話しかけにいこう」といった具合に、雑談のきっかけが生まれやすい。実際にトライアル期間中も、サービス自体の物珍しさも働いて、何人かの部員と雑談が生まれた。
リモートワーク環境下では、リアルのオフィスで働いているときのような「気軽なコミュニケーション」が発生しにくい。実際にDCS編集部も、Slackをはじめチャットサービスを導入しているものの、その大半は業務に関するやり取りとなってしまっている。同僚との円滑な関係やふとした雑談から生まれるビジネスのアイデアは多い。社内コミュニケーションの活性化にメタバースオフィスは有効であると感じた。
利用した部員にヒアリングしたところ、「すでにZoomなどのツールがあるため、そちらでいいのではないか」というネガティブな意見もあったものの、「マニュアルがなくても直感的に操作できる」「アバターの交流だけでなく、動画で互いの顔が見えるのが意外とよい」とおおむね好評だった。社内コミュニケーションの活性化という観点で、「リアルのオフィスにスクリーンを配置して、RISAの画面を投影しても面白いのではないか」という意見もあった。
今回利用した推奨利用人数20人のメタバースオフィスは初期費用なし、1フロア月額税抜1万円で利用できる。RISA担当者によれば、業界業種問わずさまざまな企業で導入が進んでおり、「とくに人事系の部署での利用が多い」とのことだ。リモートワークが進み、社内コミュニケーション機会の減少に悩んでいる企業は、まずは無料トライアルから試してみてはどうだろうか。