利用者が所定の位置に戻す
コインロック式ショッピングカート
コインロック式のショッピングカートを初めて見たのは、ダイエーのハイパーマートだったと記憶している。1990年代前半のことだ。
カート同士をキーで連結させ、接続部分に100円玉を挿入すると解錠するというもの。所定のスペースでカート同士を再度連結させると100円玉が戻る、という仕組みだ。
それまで、小売業にとって、ショッピングカートのマネジメントは重労働のひとつだった。
広い駐車場のあちこちに、使い捨てられ散乱しているカートをひとつひとつ丁寧に集め、また店内に整然と戻さなければいけなかったからだ。
ダイエーが新しく導入したカートは、使い終わったら、利用者が所定のスペースに戻すので、回収業務はなくなり、コストを削減することができる。
さすが進取の気質を持つダイエー、といたく感心したものだ。
人手不足も手伝って、コインロック式のショッピングカートを導入、活用している企業はいまなお少なくない。
ただ、私の自宅の周囲の店舗には、あいにくコインロック式のカートがなかったので、お客の立場から見た善し悪しについては、その後取り立てて、検討することなく、時間が経過した。
ところが、1年ほど前に近くに開業した食品スーパーにコインロック式のカートを見つけたのである。
コインロック式、実際使ってみると!?
早速、お客として利用してみると、「使いにくい」の一言に尽きた。
入店前に、わざわざ財布を取り出し、100円玉を用意しなければいけない。しかも開けた財布には100円玉がないかもしれない。
何より、通常の買い物で、カートの解錠をしている時間があるならば、ショートタイムショッピングに当てたい。
ということで、その店舗を利用する時には、カゴを抱えて買い物をすることが当たり前になり、1つのカゴに収容できる量の商品しか買わなくなった。
机上ではローコストと算出できる仕組みも、実は利益拡大には結びついていないかもしれない、という興味深い事例だ。やはり、お客の立場からシミュレーションや検証を重ねて導入の可否を決めるべきなのだろう。
しかし、この話には、続きがある。
その店舗では、オープンからわずか2ヶ月を待たずに、ショッピングカートのコインロックの部分がすべて撤去されたのだ。
都心部では優良と評価の高い、この食品スーパー企業は、《出口戦略》でも類まれなる存在感を見せてくれた。