第118回 キャッシュレス社会への適応がSCの分岐点

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)

SCがキャッシュレス化に取り組むべき6つの理由

 キャッシュレス化を進める意義は、単なるトレンドにとどまらない。具体的には、以下の6点が重要な視点となる。

① コストの削減
保管・輸送・防犯といった現金管理に伴うコストを削減できる。

② 履歴の保存
支払履歴が自動で残ることにより、利用者・事業者双方にとってトラブルの回避や管理効率化につながる。なお、履歴を残したくないという消費者のニーズには配慮が必要だ。

③ 購買情報の蓄積と活用
決済履歴を通じた購買傾向の把握により、より精緻なマーケティング戦略の構築が可能になる。

④ 衛生面の向上
不特定多数が接触する現金を介さずに済むため、衛生面でも有利である。

⑤ 防犯効果
現金の保管や輸送に伴う防犯対策が不要となり、リスクが大きく低減される。

⑥ デジタル化への意識醸成
アナログ業務が多く残るSCにおいて、キャッシュレス化はデジタル化推進の第一歩となる。

 日本におけるキャッシュレス化の進展が鈍い背景には、年齢やスキルにかかわらず、誰もが利用しやすい環境を重視する傾向が根強くある。新型コロナウイルス感染拡大時にFAXでの報告体制が維持されていたことも、その象徴といえる。

 しかし、技術革新の流れを止める理由が「すべての人に使いやすくなければならない」という前提に立つことにはリスクもある。これは社会福祉やセーフティネットの領域で対応すべき課題であり、キャッシュレスやデジタル化の進行と対立するものではない。双方を並行して推進していく視点が求められる。

キャッシュレス導入にあたって必要な視点

 たとえば、クレジットカードや交通系ICカード、スマートフォン決済のいずれも使えない利用者に対しては、専用のプリペイドカードを発行するという手段が考えられる。1万円のチャージで1万500円分の利用が可能であれば、販促効果も期待できる。

 さらに、決済履歴も取得でき、再来店の動機づけにもなる。このような仕組みにより、顔の見えない不特定多数に対する非効率な販促から脱却し、特定の層に向けた施策の実施や効果測定が可能となる。

 「地方ではキャッシュレスはまだ難しい」と初めから検討の余地を否定する声も少なくない。しかし、変化は必ず訪れる。その未来にどう向き合うかが問われている。クレームや混乱は一時的なものであり、むしろ早期に検討・導入を進めることで、先行者利益や運営ノウハウの蓄積につながる。

 現状維持への安心感や変化への抵抗は理解できるが、重要なのは、変化への適応力を持ち、次の時代に向けて行動を起こすことにある。SC経営においても、「変化に最も適応できる者が生き残る」という原則が、いままさに問われている。

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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