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コンビニ「再」成長へ本腰、重い期待背負う新規事業の行方は?

コンビニ「再」成長戦略

過去最高益が相次ぐも、求められる次の一手

 2023年5月、新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行して以降、人々の活動が再び活発化し、営業時間や立地、品揃えで利便性を提供する業態であるコンビニエンスストア(CVS)の業績は伸長した。「セブン-イレブン」「ファミリーマート」「ローソン」の大手CVS3チェーンでは、23年度のチェーン全店売上高や既存店売上高などのトップラインが揃って伸長。営業利益や事業利益などの利益段階においても、過去最高の水準を達成している。

 CVS市場全体を見ても、23年度のCVS市場規模は11兆6593億円と対前年度比4.3%増(日本フランチャイズチェーン協会調べ)。コロナ禍で一時、市場規模が縮小したものの22年度にコロナ前の19年度を上回り、さらに市場を拡大したかたちだ。

 これらの業績を見るとCVS市場は復活を遂げ、再び成長路線に乗ったように見える。

 しかしSBI証券シニアアナリストの田中俊氏は「既存店客数はコロナ禍以前の9割程度までしか戻っていない。また近年は新規出店がほとんど進まず、また市場を牽引するような新たな商品・サービスが出現していない」と指摘する。

 確かに、かつて大手CVSは年間1000店超のペースで新規出店していたものの、15年度頃から店舗純増数が一気に鈍化し、直近では増えても100店程度や純減も見られる。

 現在、CVSの国内総店舗数は5万5713店(23年12月末)まで増えた。今後、国内人口は減少の一途を辿る一方で、ドラッグストアや食品スーパー(SM)といった業態を超えた出店競争は激化している。こうした環境下ではCVSはもはや飽和状態といわれ、以前のような積極出店による成長はもう現実的ではない。CVSは次なる市場成長を可能にする次の一手が求められているものの、それを実現する確かな商品やサービスは現時点では存在していない状態といえる。

KDDIがローソンの経営パートナーに

 しかしここ1年、コロナ禍により生じていた閉塞感を打ち破るようにCVS業界では大きな動きが見られた。まず24年2月にローソン(東京都/竹増貞信社長)が発表した、親会社の三菱商事(東京都)、KDDI(東京都)との3社での資本業務提携だ。今後、KDDIは三菱商事とともにローソンの議決権を50%ずつ保有する共同経営パートナーとなり、3社でローソンの企業価値向上に取り組む。

 ローソンはCVSで唯一、通信事業会社を共同経営パートナーに迎えることで、テック分野の取り組みを加速させる方針。両社間の顧客・購買データを活用した販促といったデジタル面での協業や、AIやロボットなどを導入した次世代型リアル店舗の開発など、将来的な事業構想を一気に打ち出した。

 近年、事業基盤を構築してきた新しい成長施策も本格化してきた。ファミリーマート(東京都/細見研介社長)は、CVSの持つ店舗やアプリといった顧客接点を活用し広告・メディア事業を展開する、リテールメディア事業に本格的に乗り出している。

 同社は同事業の展開に向けて20年以降、独自の決済機能付きアプリ「ファミペイ」や金融事業のファミマデジタルワン(東京都)、広告配信・代理店事業のデータ・ワン(東京都)、デジタルサイネージ設置や広告メニュー拡充といったメディア開発事業のゲート・ワン(東京都)という3つの事業会社を始動。24年3月には、デジタルサイネージ「Family Mart Vision」の設置店舗数を全国47都道府県の1万店規模に拡大させ、リテールメディア事業を本格的に展開する体制を整えた。まずは同事業において25年度までに税引後当期純利益で50億円の達成をめざしている。

ファミリーマートは24年3月、デジタルサイネージの設置店舗数を全国47都道府県の1万店規模に拡大させた

CVSのデリバリー網をいよいよ全国に波及

 もう1つCVSが事業を加速させているのが、店舗商品を受注後、短時間で届ける即時配送サービスだ。

 セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)は26年2月期までの5カ年中期経営計画において、店舗商品の即時配送サービス「7NOW(セブンナウ)」で売上高2000億円を達成する目標を掲げている。24年2月期には北海道・関東・広島・九州エリアの1万2000店へと一気に展開を拡大。25年2月期末までに全国の加盟店に推奨する計画だ。

セブン&アイは26年2月期までに、即時配送サービス「7NOW」の売上高で2000億円を達成する目標を掲げている。各店頭でもポスターを使った積極的な販促がみられる

 ローソンも即時配送サービスを次なる成長施策として位置づけている。同社は「Uber Eats(ウーバーイーツ)」をはじめデリバリー事業者計4社と手を組み、これら企業のデリバリープラットフォームに出店するかたちで事業を展開。24年4月時点で導入店舗数を47都道府県計5671店まで広げている。また同社は一部出店店舗において、一般用医薬品も扱うほか、店内調理設備を生かしてデリバリー専用の店内調理メニューを配送するゴーストレストラン事業も展開している。

 そのほか中堅CVSのミニストップ(千葉県/藤本明裕社長)も、強みとするファストフードやコールドスイーツのデリバリー事業を加速させている。

 これらCVSの即時配送サービスでは、なかにはすでに売上が1日10万円を超える店もあるほか、利用者のチェーンでの利用総額が増えるなどの成果が出ており、ニーズはありそうだ。

 しかし近年、即時配送サービス事業に参入する企業が続いた一方、撤退や事業縮小の動きも散見される。そうしたなかCVSは全国に店舗という在庫・配送拠点を持っている点が強みである。大手CVSを中心に全国にサービス網が広がりつつある今、CVSの即時配送が消費者に受け入れられるか、注目である。

SIPストアや生鮮強化店… 次世代CVS開発にも着手

 中長期で顧客に必要とされる存在になるための検証・実験にも動きだしている。

 セブン-イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長:以下、セブン-イレブン)は、いまだ取り込めていない潜在ニーズの開拓と、次世代のCVSの在り方を模索するための新コンセプト店舗「SIPストア」の開発を構想。24年2月にはその1号店として「セブン-イレブン松戸常盤平駅前店」(千葉県松戸市)をリニューアルオープンした。

 売場面積は通常店の約1.8倍の約88坪、アイテム数は約1.7倍の約5300SKUと大型の店舗で、イトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長)をはじめ、セブン&アイグループのシナジーを発揮することで、生鮮や日配、ベビー用品、バラエティ雑貨など幅広い品揃えを実現した。開業からひと月の業績はオープンセール期間を除いても売上が対前年同期比で46%増と大きく伸長し、なかでも高齢者や子育て世代の来店が増える効果がでている。

 セブン-イレブンは現時点ではSIPストアを多店化する方針はないという。まずは検証により全店に適用できる事例を見出してスピーディに水平展開し、既存店の底上げにつなげていく。しかし同時に、SIPストアを通じて、2030年頃を見据えた「あるべきフォーマット」の研究開発を進めていく考えだ。

 国内でもとくに人口減や高齢化が早期に進む北海道を中心に店舗展開する中堅CVSのセコマ(赤尾洋昭社長)も、生鮮強化タイプの店舗開発に実験的に着手している。道内の過疎地ではSMが減少しつつあり、遠出をせずに身近な場所で買物を済ませたい人が増えていることから需要を見込んでいるという。

 今後、人口減や高齢化などがいっそう進めば、SMでは採算が合わない地域が増えるほか、高齢者が最寄りの店で買物を済ませたいニーズもいっそう高まってくる。そうしたなか、全国に物流網を持ち、他業態よりもローコストで運営可能なCVSが、ワンストップで日常に必要な買物を済ませられる業態となれば、大きな存在感を発揮していきそうだ。

 このようにCVSは、近年温めてきた次の成長施策を本格展開させる土台を整え、いよいよ新たな売上獲得に向けてアクセルを踏むステージに突入している。また、中長的を見据えて、出店競争でこれまで以上に狭くなる商圏内や、過疎地でも勝てる存在になるための実験や検証も、水面下で確実に推し進めている。

 コロナ禍が収束した今、CVSが“飽和論”を打破するような革新を生みだす、新たな転換期となりうるかもしれない。

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