本多利範氏が指摘する「家族モデルが消失」した日本で小売業が果たす役割とは

2024/05/23 05:59
本多利範
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増える移動販売車

 日本の「家族モデル」が崩れ、小売業には対応が求められる。ただ少子高齢化でトップを走る日本で顕著な傾向であり、世界に目を向けても同分野でまだ「勝ち組」は存在しないのが現状だ。

 変化対応のための、重要なキーワードは「小商圏化」である。品揃え、価格、商品のサイズなど、これまで標準だったすべてを見直すことになる。いわば「ミニスーパー」のようなスタイルで、そこへ行けば日々、食を中心として日々使う商品が揃う業態が天下を取るだろう。

 関連して思い出すのは米ウォルマート(Walmart)の動向だ。デリバリーサービス充実のため、各地に巨大な配送センターを建設したものの、すぐに施設を閉鎖した。小商圏の時代が来ることを想定し、人々が住む場所から近い店舗を拠点に配送する方針へと転換したのは興味深い。

 こう考えると日本で有利な業態は、コンビニエンスストア(コンビニ)かもしれない。全国どこにでも、生活者の家の近くに店がある。その中、「セブン-イレブン」が「ワンストップショッピング」を掲げた店づくりへシフトする方針を打ち出したのは注目に値する。

 注意すべきは、これまで小売業が追求してきたのは利便性であるという点だ。社会構造そのものが変化している状況からすれば、新たな機能を付加する必要がある。つまり商品をただ届けるだけでは不十分で、「コミュニケーション」が重要なテーマとなる。さらに今後、日本で急増すると見られる「買物難民」への対策もヒントになる。

 たとえば家電量販店のヤマダデンキ(群馬県)は、移動販売車を使って、電球交換などの御用聞きをする新たなサービスを始めた。メガネチェーンのジンズも、お客のもとに出向く商品の移動販売車を走らせている。移動販売車が増える背景には、これからの小売に求められる重要な何かがあるような気がしている。

 先日、『ライフシフト』(イギリスの組織論学者、リンダ・グラットン著)という本を読んだ。人生100年時代を迎え、新たな価値観、生き方について考えさせられる内容だった。「家族」が消失する新しい社会構造の中で、必要なのは人と人がつながって生きる「共生」。長い人生、人は皆、希望がないと生きていけないのだ。その中、小売業が果たす役割は大きいと思えてならない。

本多利範さんの書籍「お客さまの喜びと働く喜びを両立する商売の基本」

商売の基本_書影本多 利範 著
定価:1650円(本体1500円+税10%)
発行年月:2022年03月
ページ数:276
ISBN:9784478090787

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