フォーマットは乗り換えるもの
前号までの11回にわたって既存フォーマットの課題、そして再生のためのフォーマット構成の要素、最後に定期的にフォーマット転換を進め、いまだに成長軌道を走り続けているアメリカの大チェーンのフォーマットの事例を述べた。本連載の最終回になる今回は、既存フォーマット再構築と新フォーマット開拓、両方に共通の原則を述べたい。
まず忘れてはならないのは、フォーマットとは事業としての“乗り物”であることだ。だから時流に合わせて乗り換えるべきものなのである。フォーマットは永遠に続くものではなく寿命があるからだ。
ところが本連載で述べたように、日本の流通業フォーマットは長期にわたりメンテナンスが行われてこなかった。そのために既存フォーマットの多くは時流に合わない乗り物になってしまったのだ。だから成長速度が鈍り業績が低迷しているのである。
本来なら既存フォーマットが時流に乗って稼いでいる間に、次の原動力となる新フォーマットを用意しなければならない。既存フォーマットの寿命が尽きる前に新フォーマットを成長の軌道に乗せて、乗り換えるためである。欧米で長期間成長を維持する流通企業は皆そうしてきたし、今も続けているから安定して企業規模を拡大し続けているのだ。
流通業だけではない。製造業もほかの産業界でも企業は時流に合わせて経営戦略を立て直し、新ビジネスを開発し、乗り換えてきた。だから生き延びることができた。それができなかった企業と業界は消滅したのである。
同時に、チェーンストアにとってフォーマットは“社会貢献”の手段である。より便利で楽しい商品やサービスを自ら開発し、新たな販売方法に乗せて生活者に提供することで、人々の毎日の暮らしをよりよい方向に導いてゆくものでなければならない。そうすることでチェーンストアは暮らしに欠かせない社会インフラとなるのだ。生活者の賛同を得られない限り企業の発展も望めないのである。
2020年からのコロナパンデミックは、われわれにこれまで経験したことがない難問を突き付けた。追い打ちをかけるように22年2月のウクライナ侵攻により、世界規模で均衡を保っていたサプライチェーンが崩壊し、日本にとって約40年ぶりのハイパーインフレが襲ってきた。
それ以前からIT、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の第四次産業革命の影響は目に見えて、波に乗れる、乗れない産業と企業の間で格差が開きつつあった。その差は“未曾有の危機”のなかで取り返しのつかない亀裂を生じつつあるのだ。
改革の方向性
熟成フォーマットの場合、同一フォーマットの企業同士が同質化している。立地条件も売場面積も商品部門構成
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