1杯1000円の自販機ラーメンを成功に導いた、緻密なマーケティングと商品戦略とは?
理由の一つには、「ターゲットが明確だった」ことがある。
お手軽さや低価格は大手スーパーやコンビニの領域だと考え、ターゲットを「フードコートでラーメンを食べる客」に設定したのである。
「例えばコンビニで買うことができるチルドのラーメンは500円程度と安く、レンジで簡単に調理できますが、再現度は本格的なラーメンの20%ほど。それに対してヌードルツアーズは、再現性が80%程度はあるのではないかと考えています。当社の冷凍麺は、湯煎や盛り付けに多少手間がかかり、お値段も大手製麺所のものよりは高いですが、本格的なラーメンを食べたい人の欲求を満たせていると思います」(丸山氏)
実際に、時短営業で夕食難民になったサラリーマンや、小さな子どもがいて気軽にお店に足を運べない主婦、在宅勤務の人が手軽なランチとしてよく購入しているそうだ。
地域別では、特に新潟や静岡県、広島県など地方での売れ行きが順調だという。「多種多様な東京の激戦区のラーメンは自販機で人気なんですよ」(丸山氏)。
さらに地方のガソリンスタンドや、商店街などからの誘致も絶えないという。
ラーメン自販機は、コロナ禍で生まれた中食ニーズを果敢につかみ取った結果の成功と言えるだろう。
「過去1年半で、ラーメン業界を含む外食業を取り巻く事業環境は劇的に変化しました。ウーバーの進出に代表されるデリバリーサービスの台頭は、今後10年で起こると予想されていたことです。そういう意味では、今後も続くであろう『自宅で、本格的なものが食べたい』というニーズに応える新たな市場をラーメン自販機で創出することができたのではないでしょうか」(丸山氏)
名物ラーメンに負けない冷凍ラーメンのクオリティが新たなビジネスチャンスに!
製麺所は近年、縮小化しており後継者不足により多くの会社が廃業を余儀なくされている。そこに、コロナが直撃した。3代目にあたる丸山製麺取締役の丸山氏は、いつか家業を継ぐことを決めてIT企業に就職、マーケティングや事業開発にも従事した経験が今日に役立っている。「人口減少社会においては、製麵所の売上は国民の胃袋の数と連動するため、BtoBビジネスの一本足打法では、事業の限界が来ると考えていた」(丸山氏)そして「BtoCビジネスの創出」に燃えている。
丸山氏に成功の要因を尋ねると「マスメディアが取り上げてくれたこと」としつつも、自身でも発信するWebマーケティングには余念がない。SNSを駆使し、同社twitterアカウントのフォロワー数は1万8000人を超える。人気Youtuberにもラーメン自販機が取り上げられるなど、話題性にも事欠かなかった。
昨今では、冷凍保存の性能が高まり、再現度の高い本格派のラーメンが通販でも多く見られるようになった。この11月、丸山製麺でもお客様の要望に応えるかたちで冷蔵の商品をすべて冷凍に、これまで麺が複数個入りだったものを個包装にして発送を始めた。実質、自宅でもヌードルツアーズのラーメンが食べられるということだ。
今後、自販機と通販との相乗効果が期待できるが、何よりヌードルツアーズの最大の強みは、自販機でラーメンを買うという体験の楽しさと、送料、交通費いらずで本格的なものを買うことができる点にある。また、中小製麺所ながら多種多様なラーメン店に特注の中華麺を製造開発してきた同社ならではの確かな技術が、取引外のラーメン店ともコラボを実現させた。
この時流に乗ったマーケティング戦略も、すべてはやる気に満ちた若手取締役ならではのものだったのかもしれない。