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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営27 ポストコロナがもたらす「バトンタッチ」とは

ようやく日本でもワクチン接種が始まったものの自治体で格差が生じ飲食店の補助金も滞る。未だ接種券という“紙”による統制にも驚かされるが、印刷した接種券を封筒に入れ全国民に郵送する気の遠くなる作業に従事する人達も大変だろう。新型コロナウイルスの第1例目が発見されたのは20201月。あれから500日、果たしてショッピングセンター(SC)運営は変化したのだろうか。今号ではこれまでを振り返りつつ、今後の課題を考えたい。

bunditinay/istock

 SCビジネスの脆弱性

 度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置により時短営業や酒類提供禁止から物販、飲食、サービス店舗など全業種で売上減少が起こりSCの収益は大きくダメージを受けた。これまでSCの収益は「不動産×テナント売上高」という2つの掛け算によるビジネスであることを幾度となく指摘してきたが、コロナ禍によるダメージは、このパラメーターの1つ「テナント売上高」を大きく減少させたのである。

 SCビジネスは、都市部においても地方においても商圏人口とテナント売上高さえ見込めれば、そのテナント売上高に応じた賃料収入を背景に投資を可能にした画期的なモデルではあるが感染症の前にその弱さが浮き彫りとなった。

震災時との相違とピンチをチャンスに変える方法

 コロナ禍による店舗休業や営業時間短縮は、2011年の東日本大震災の時とは大きく異なる。当時は停電が断続的に発生、電車や物流や商品供給が滞り、非常用電源の重油も不足し、営業ができない状態にあった。

 しかし、今コロナ禍では電車や物流や商品が滞ることなく営業可能な状態であるにも関わらず休業や短縮を要求され営業出来るけど営業出来ないという状況に追い込まれた。全く異なるこの2つの出来事は我々にとって大きな教訓となったと思う。

 では、休業や時短を要請されたSCはどのような対策を取ってきたのか。残念ながら嵐が去るまで身をかがめて待っているのではないだろうか。

 第1回目の緊急事態宣言による店舗休業時、売上を落とさなかった店舗があった。その店舗は閉店している店内からショップスタッフによるライブコマースで商品を販売していたのだ。休業に対して不満をもらす人が多い中、彼女らはテクノロジーを使って新たな販路を開拓した。今ではそのスタッフのフォロワーが顧客として店舗を訪れ、更に売上を伸ばしていると言う。まさにピンチをチャンスに変えた好事例だろう。

コロナで変わったもの、収束後も残るものとは

 “オンライン接客”なるものがコロナ禍で始まった。これまでの接客という場面をZOOMなどのオンラインソフトを使って行うものだが、やはりこれまでと同一線上であり、コロナ禍が収束すれば元のリアルな活動に戻る。

 コロナ禍によって「変わったもの」とは、コロナ禍の収束後も残るものが真に変化したものであり、コロナ禍が収束したと同時に戻るものはその場しのぎに過ぎない。

 もちろん変わることすべてが正とは言わないが少なくとも新たな価値が生まれることによって社会的に評価され顧客から利潤という形で収受できるものは変わるべきものであり変わっていく。オンライン接客にもさらなる一歩を期待したい。

次を切り拓くのは次の世代

 500日に及ぶ自粛期間を経て、今、家計には多額の資金が滞留する。コロナ禍によって職を失ったり店が閉店したり自殺者が増加したり、悲しい報道も多いが、一方で高額品が売れ夏の国内旅行の予約も好調と聞く。

 前々回の本稿で指摘したテーマ「転職の増加とオンラインネイティブ」は国民の価値観と消費者の交代が進行しているためだが、この場合の消費者とは若い世代とか中高年とか、そういった年齢や社会経験の長短で区切られた世代では無く、価値観や生活スタイルの相違であり、これまでの生産者、消費者という分類も馴染まない。

 供給側と需要側を分けたオンライン接客を行うような発想ではなく、ライブコマースにまで進化させて初めて新たな価値を生むことができる集団である。

図表1 年間消費支出の推移(二人以上の世帯)家計調査年報

 その集団は、過去20年の消費低迷(図表1)を作ってきた人たちとは異なった価値観を持つや人材や世代であり、ポストコロナは、彼らにバトンタッチすることではないだろうか。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒