伊藤忠食品(大阪府/岡本均社長)が4月28日に発表した2021年3月期決算は減収増益だった。飲食店や業務用向け取引の減少で減収となったものの、不採算取引の改善などにより利益は増加。2期連続の増益となった。今後も中期経営計画の実現に向け、「デジタルサイネージ」「惣菜」「物流」の3つの重点分野に注力する。
コロナ禍で販管費が低減
伊藤忠食品の21年3月期決算は、売上高が対前期比0.7%減の6567億円、営業利益が同13.4%増の50億円、経常利益が同9.9%増の62億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同1.4%増の40億円と減収増益だった。
内食需要の高まりを受けて好調な食品スーパー(SM)向けの売上が年間を通して好調だったものの、休業や営業時間短縮、消費者の生活様式の変化などにより飲食店やコンビニエンスストア(CVS)などが苦戦。加えて一部客先の取引形態の変更などもあり、全体では減収となった。
利益ベースでは、営業利益以下すべての段階で2期連続の増益を確保。不採算取引の改善や低重心経営の徹底などが奏功したほか、コロナ禍での営業活動の自粛による旅費交通費の減少や、リアルの場での展示会中止などにより販管費も抑制された。
卸売企業として飲食店支援も
商品分類別売上高では、構成比率トップの「嗜好品・飲料」が同4.1%増だったほか、「和洋酒」は同3.2%増、「調味料・缶詰」は同2.7%増、「麺・乾物」は同3.8%増、「冷凍・チルド」は同3.1%と多くの分類が好調だった。しかし、構成比率第2位の「ビール」は、コロナ禍による飲食店や業務用向けが減少したほか、缶チューハイなど低価格のRTD(Ready to Drink)への需要シフトなどにより同10.2%減。「ギフト」は百貨店休業などの影響により同6.1%減と低調だった。
業態別売上高では、コロナ禍の特需に沸いた「スーパー」(ドラッグストアを含む)が同4.3%増と好調だったもの、「卸売業」が同9.6%減、「百貨店」が同7.8%減、「CVS・ミニスーパー」が同0.7%減、「その他小売業」が同26.8%減と、主にコロナ禍で苦戦を強いられている業態の売上高が減少した。
酒販店や飲食店などコロナ禍で厳しい状況にある業態の支援について、岡本社長は「やれることは限定的」としながらも、伊藤忠食品が出資するフードロス削減を目的とした持ち帰りサービス「TABETE」を事業者に紹介するなど、卸売企業として店舗利用減少を補う方法の提案をしていきたい意思を示した。
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エリア別売上高では、SMの好調を受けて東海地方が同1.7%増、九州地方が同3.4%増と西日本が比較的好調だった一方、業務用・飲食店向け取引の比率が高い東日本は売上への影響が大きく、関東地方は同3.2%減だった。
冷食専門店をオープン
決算説明会では、22年度を最終年度とする3カ年の中期経営計画「Transform2022」の取り組み状況も発表された。収益拡大に向けた基盤構築として、「デジタルサイネージ」「惣菜」「物流」の3つの重点分野で掲げた各施策を着実に進めている。
「デジタルサイネージ」では、売場への導入による活性化を推進。メーカー・小売業双方のデジタル販促を支援し、「リテールサポート機能」を強化した。そのほか、リアルでの展示会開催が難しいなか、21年1~2月にウェブ展示会を初開催。伊藤忠食品が出資するレシピ動画サービス「DELISH KITCHEN(デリッシュキッチン)」と連動した企画を中心に、オンラインならではの提案に取り組んだ。
「惣菜」では、既存取引の強化・さらなる販路拡大に加え、液体凍結技術を活用した冷凍商品「凍眠市場」のラインアップ拡充に注力。21年2月には、同技術を活用した凍結機器の製造・販売を行うテクニカン(神奈川県/山田義夫社長)が運営する冷凍食品専門店「TŌMIN FROZEN」がオープンしている。同店では、畜産物や水産物などの生鮮食品のほか、チーズや漬物などの日配品、スイーツ、麺類、総菜などの調理済み食品など約500品目を取り扱っている。
「物流」では、製・配・販で連携した取り組みを強化。21年4月よりメーカーとの運搬車両相互活用が一部拠点で開始されている。小売店への配送終了後に、近隣のメーカー工場から倉庫への商品輸送を行うことで、全体の車両台数を削減する考えだ。
22年3月期通期の業績予測では、売上高6200億円、営業利益50億円、経常利益62億円、親会社株主に帰属する当期純利益41億円を見込む(注:22年3月期期首から「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)などを適用するため、前期との比較なし)。引き続き中期経営計画の実現に向け、「消費者起点」での売場の活性化や製・配・販の連携による消費者への新たな価値提供などにより成長基盤の構築を推進する考えだ。