顧客起点のデータ活用による流通マーケティングの革新
~顧(個)客理解が全て~
サントリー酒類株式会社
営業推進本部 部長 リテールAI推進チーム シニアリーダー
中村直人 氏
小売企業への2つの提案
コロナ禍の影響で、消費者の価値観、購買行動が大きく変化している。強まっているのは「安全」への要求である。“密”の状態を避け、非接触を求める人は増えている。「時間」を有効に使いたいというニーズも大きい。非計画購買する人が減る一方、必要な商品を計画的に買い求める人が目立つ。それに伴い、いかに時間を有効に使うかについての関心も高まっている。
そういった状況の中で、食品スーパーやドラッグストアが好調の反面、ややコンビニエンスストアや総合スーパーなど苦戦している業態もある。当社としては、各業態、各社の弱みを最小限に抑え、強みを伸ばすようなお手伝いをしたいと考えている。
現在、当社がお客さまと協業、提案していることは大きく2つある。ひとつは売上高を拡大するような施策。お客の買い物体験を向上し、ファンを増やしていくというものだ。もうひとつは企業体質を筋肉質に変えていくような取り組み。在庫適正化やオペレーションの省力化によりコストダウンを図っていく考えだ。実現するには、メーカーと小売企業様のバリューチェーンをシームレスにつなげることが必要となる(図表①)。その上でAI(人工知能)やデジタルツールを活用すれば、お客さまの購買行動を可視化することもでき、有用なデータ分析を行えるようになっている。
顧客軸も取り入れた品揃え
九州のディスカウントストア企業との取り組みを紹介したい。売場に設置したカメラを通じ、お客の購買行動をデータ化した。飲酒量や購買傾向により、お客をヘビー、ミドル、ライトユーザーなどに分類した。それによれば商品を選んで店を出るまでの時間は、特定の銘柄を好んで飲むヘビーユーザーはわずか8秒だったのに対し、多数の銘柄から選ぶ傾向のあるライトユーザーは45秒と、大きな開きがあった。ここからは同じお客でも、その方によって買い方がまったく違うという気づきがあった。
また棚割りの方針を変える必要性を感じさせるデータも得られた。従来、ABC分析で売上高が上位の商品から売場に陳列するのが一般的だった。だが、よく調べるとCランクの商品の中には、ロイヤルカスタマーが買うアイテムが含まれていることが分かった。商品の売れ行きだけで品揃えを決めていては大切なお客さまが来店しなくなる可能性がある。単に売上高だけでなく、そこに顧客軸も掛け合わせた売場づくり、品揃えをすることの重要性を強く感じている。
また違う店舗においては、当社のハイボールと、唐揚げを組み合わせた実験も行った。レジカートに唐揚げを入れたお客に対し、その場でハイボールを安く買えるクーポンを配信してみた。すると何もアクションしない場合と比較し、ハイボールを買う人は最大で6倍にも上るとの結果が出た。お客が買おうとするタイミングで、相性のよい商品をレコメンドすることは効果的であるとわかった。これらを通じ、われわれが痛感しているのは意識する経営指標、目線を変えていく必要があるということだ。従来は、売上高や利益など重視、商品やブランドを軸とするプロダクトアウトの考え方に重きを置いていた。
だがこれからは顧客を主体に据え、いかにその人の体験の品質を上げ、われわれとの接点を継続的に持つことが重要になってきている。そして、その方のライフタイムバリューを上げ、結果として小売企業、メーカーの業績が伸長するようなアプローチが求められていると感じている(図表②)。今後も、様々な流通企業との取り組みを進め、マーケティングの精度を上げていく考えだ。
各プログラムの詳細
下記画像リンクから、各プログラムの詳細をご覧いただけます。