「脱100均」を進めて独自業態の確立めざす!=キャンドゥ 城戸 一弥 社長

聞き手:千田 直哉 (株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア編集局 局長)
構成:小木田 泰弘 (ダイヤモンド・ドラッグストア 編集長)
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売れ筋は「アイディア」「癒し」「楽しさ」「手づくり」に変化

──14年は、消費税増税よりも円安の影響のほうが大きかったのではないですか。

城戸 一般に、海外から商品や原材料を調達している割合が高いと、為替の変動の影響を受け、円安が進めば売価に転化せざるを得ません。

 しかし、われわれ100円ショップは売価が決まっていますから、それができません。ですから多くの方に「100円ショップのビジネスは難しいでしょう」とよく言われます。しかし、実際はそうではありません。

 売価が100円ということは、原価がある程度自動的に決まりますので、そのなかでやりくりすることになります。その結果、たとえば乾電池なら1パック当たりの本数を減らしたり、またメーカーさんに商品に使う原料を減らしてもらったりして調整するのです。

 100円ショップは約30年前に確立された業態ですが、このようにして為替の変動を乗り切ってきました。

──キャンドゥは100円ショップ業界のなかでは比較的若い企業です。大きく成長できた理由はどのようなところにあると考えていますか。

城戸 当社は、ちょうどバブル経済が崩壊してデフレが始まったころ、1993年に設立しました。

 100円という価格競争力を武器に、低迷を続ける日本経済を横目に業績を伸ばし、「デフレの寵児」とまで言われました。これは当社だけではなく、ダイソー(広島県/矢野博丈社長)さんやセリア(岐阜県/河合映治社長)さんなどの同業や、低価格を武器にした外食産業も同じです。

 当社は時代の追い風を受けて、ヨットがジェットボートになったように急速に成長することができました。しかし近年は風の勢いがなくなり、成長のスピードが落ちてきていました。

 100円という価格に競争力があったのは一昔前です。今は100円に競争力があるとは考えていません。100円には「お得感」もありましたが、昔ほどではなくなってきたと思います。

 以前なら、100円ショップでは乾電池やトイレットペーパー、ティシュなどの日用品がよく売れました。しかし今ではお客さまの身の回りにドラッグストア(DgS)やコンビニエンスストア(CVS)が数多くあり、日用品を低価格で販売しています。

 100円ショップでトイレットペーパーを販売するとなると、売価は100円ですから2ロールが限界です。しかし、すぐ近くのDgSやCVSでは6ロール298円で売っています。100円ショップで2ロールのトイレットペーパーを3つ買うより、お客さまがDgSやCVSで6ロールの商品を購入するのは明らかです。

 また、企業の応接室に置いてあるようなガラス製の灰皿も、一昔前なら「これが100円なの!?」とお客さまは驚かれました。しかし、今では当たり前となり、「お得感」はなくなりつつあります。

 100円ショップが高成長を繰り返していた時代は日用品や雑貨、菓子などが売れ筋で、生活必需品を販売する「生活インフラ」の店のようにお客さまには認識されていました。しかし、DgSやCVSが増えて、100円ショップでは日用消耗品のウエイトは横ばいです。

 一方で、「ミニ観葉植物」や「レンジパスタ容器」など、DgSやCVSでは取り扱っていないような商品が売れるようになってきました。アイディア商品や嗜好品、ちょっとした楽しい雑貨などに売れ筋が変わりつつあります。

──いつごろから変わってきましたか?

城戸 アイディア商品や嗜好品といった新商品が消耗品よりも伸びるようになったのは2年ほど前からです。

 そのころ、一見してどんな使い方をするのかわからない商品があったので、「売れるはずがない」と担当者に文句を言ったことがありました。しかし、実際、販売してみると当社の新商品中、最も売れた商品となって、固定観念を打破しなければいけないと反省させられたのです。

 消耗品ではなく、「アイディア」「癒し」「楽しさ」「手づくり」といったコンセプトを切り口にした商品が売れるようになり、はっきりと時代の変わり目を感じています。

時代の変化は同質競争から抜け出すチャンス!独自の業態「キャンドゥ」だと認識されたい

──売れ筋の変化など、それまでのビジネスの手法が通用しなくなると、事業が低迷する可能性もあります。

城戸 私はそのピンチが逆に大きなチャンスにみえました。理由は、電池やトイレットペーパーのような消耗品は、競合店との価格競争がとてもきつかったからです。

 競合が乾電池6本なら、こちらは7本にする。すると競合は8本にしてくる。お客さまは喜ばれるかもしれませんが、利益をギリギリまで削ることを余儀なくされます。しかも、商品のボリュームは目まぐるしく変わり、お客さまからの信頼も失うことになります。そして、同じナショナルブランド商品を扱っている限り、大手のチェーンストア企業には、価格面ではまず勝てません。こちらが100円でも、DgSやCVSは98円で販売することができるからです。

 ですから100円ショップの売れ筋の変化は、同業他社や他業態との低価格競争から抜け出す絶好のチャンスだと考えました。

──同業他社やDgS、CVSと同じ土俵で戦わないということですね。

城戸 価格や量目ではなく、さまざまなコンセプトを切り口にした商品で勝負するのが当社の生き残りの道だと確信しました。実際、今はそのような商品の開発と販売に注力しています。

──それが13年11月期から打ち出した「第二の創業」なのですね。

城戸 そうです。めざしているのは「脱100均」です。当社はお客さまから「100円ショップ」と認識されるのではなく、「キャンドゥ」と認識されたいのです。

 100円ショップ業界の市場規模はおよそ5500億円といわれており、当社を含めた大手によって寡占化が進んでいます。ショッピングセンター(SC)にはさまざまな雑貨専門店が入っていますが、100円ショップは1社だけです。当社が「100円ショップ」ではなく、「キャンドゥ」という独自の業態だとお客さまに認識されれば、SCへの出店機会は格段に増えることになります。

 当社に限らず、100円ショップ各社がそれぞれ差別化に成功すれば、5500億円の市場規模が2倍の1兆円超になることは不可能ではないと考えています。ですから当社は一生懸命差別化に努めています。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

構成

小木田 泰弘 / ダイヤモンド・ドラッグストア 編集長

1979年生まれ。2009年6月ダイヤモンド・フリードマン社(現ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」誌の編集・記者を経て、2016年1月から「ダイヤモンド・ドラッグストア」誌副編集長、2020年10から同誌編集長。

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