「日本最大の6次産業」を標榜、第1次産業を守り、育てていきたい=神戸物産 沼田博和 社長
92年から製造業を開始
──神戸物産の大きな特徴は「日本最大の6次産業」を掲げ、流通のほか製造業にも進出して、「製造業フランチャイザー」というビジネスモデルを確立している点です。
沼田 一般的に、当社は流通業と見られがちですが、第2次産業である製造業への取り組みは20年以上も前の1992年にスタートしています。創業者の沼田昭二CEO(最高経営責任者)が中国の自社工場でわさびや梅干を製造、海外の日本食レストランや小売業に卸したのが始まりです。
その後、製造小売業としての性格をさらに強め、08年からは全国の食品メーカーを次々と買収。現在はグループ工場所有数が日本最大規模となる19社22工場となり、日配品や加工食品をはじめとするプライベートブランド(PB)を製造しています。今後もいい案件があればM&A(合併・買収)を進める方針です。
──さらに農産、畜産、水産業といった第1次産業の分野にまで積極的に事業領域を広げています。
沼田 08年10月には北海道むかわ町に農場を取得し、農業生産法人の神戸物産エコグリーン北海道(北海道/太田雄二社長)を設立しました。畜産では10年1月に、同社の農業用地の一角を牧場として使用し、9月末時点で730頭を肥育しています。11年11月に養鶏と処理場を運営するグリーンポートリー(岡山県/沼田昭二社長)を買収。12年5月には、宮城県石巻市に31トンの底引き網漁船を購入して水産業にも進出。今年8月には新たに造船したことで、現在は2隻で操業しています。
──「6次産業」化をめざす意図は何ですか。
沼田 日本における従来型の小売業のビジネスモデルは、大きなバイイングパワーで仕入れ、商品を安く販売する手法です。当社は80年代に小さなSM(食品スーパー)を展開していたのですが、大手と同じスタイルで対抗しても勝ち目がないと判断しました。そこで規模の小さい当社でも継続的に成長できるビジネスモデルとして、製造小売業を志向するようになったのです。原材料の生産、加工、販売までを自社で手がけることにより、高品質で安全・安心な商品を提供。また他社にはない、差別化した品揃えができるのも大きな強みだと考えています。
深刻な世界の食糧事情
──ユニークなビジネスモデルで絶好調ですが、次なる目標はどこに定めていますか。
沼田 すでに着手はしていますが、第1次産業の分野にさらに深く踏み込むのが目標です。自社で農産、水産、畜産業を手がけることで初めてわかったのですが、クリアすべき課題は多いと感じています。
具体的には、日本においては第3次産業の影響力が非常に大きいことが問題です。つまり小売店で販売できる規格を厳密に定めているため、規格外のモノの行き場がなく生産性を悪化させ、結果として第1次産業が育たない要因となっています。
──確かに曲がっていたり、色がよくなかったりする野菜は店に並びません。
沼田 そうです。品質面では問題がないのに、流通段階による規格の制限によって多くの農産や水産物でロス、ムダが生じています。水揚げされても値のつかない魚の量はかなりあります。
人口が減少する日本では実感しにくいのですが、世界的には人口は爆発的に増加しており、食糧不足は深刻です。
一方で、国内の第1次産業の現状に目を向けると、従事者の平均年齢は65歳以上と高齢化が顕著です。これらを総合的に見ると、日本は非常に危険な状況にあるといわざるを得ません。
そこで、第1次産業の生産性を高め、従事者の収入を引き上げることで、第1次産業を守り、育てていきたい。最終的には当社グループで第1次、2次、3次産業が合理的に連携できるさらに新しい仕組みを構築できればと考えています。