スポーツ用品大手のアルペン(愛知県/水野敦之社長)が絶好調だ。2月4日に発表した2021年6月期第2四半期(20年7~12月)連結業績は、純利益、売上高、営業利益、経常利益のいずれもが上場来最高を達成した。コロナ禍にあって、なぜこれだけの躍進ができたのか。数字と打ち手から要因に迫る――。
コロナ禍で需要増えたアウトドア・ゴルフが売上牽引
売上高1205億3900万円(前年同期比105%)、営業利益110億9200万円(同337.3%)、経常利益120億2400万円(同293.3%)、第2四半期純利益78億2900万円(同329.7%)。同社が2月に発表した2021年6月期の連結決算は、いずれの数字も2006年の上場来最高の数字となった。新型コロナウイルス(コロナ)の感染がまさに拡大していた時期だけに、驚きの数字といえる。
売上をけん引したのは、アウトドア関連とゴルフだ。ともに密を避けられるレジャー・スポーツとして、需要が急拡大。加えて、在宅勤務の浸透で、スーツに代わる着衣として、スポーツアパレル領域のニーズも増大。これらを淀みない販売展開で掬い取った。特にゴルフは、注目度の高い新モデルをシューズやアパレルと絡め、戦略的に販売展開し、着実に需要を取り込んだ。
コロナの発生前から同社はそうしたニーズに対応する地盤を着々と固めていたものの、結果的にコロナが追い風になった格好だ。
アルペン躍進、数字では見えない要因とは
だが、同社の躍進をこうした点だけでみると本質を見誤る。アウトドアやゴルフ需要の増大はあくまでもひとつの要因に過ぎない。なにより、それだけで、純利益、売上高、営業利益、経常利益の全項目で上場来最高業績を達成する説明はつかない。
最大のポイントは今期の結果を受けた水野社長の言葉の中にある。
「昨今力を入れてきた様々な改革の成果であり嬉しく思う」。
この言葉通り、今期の飛躍は、まさにここ数年の改革が着実に結果に結びついたものといえる。
起点となるのは、2018年7月。この時、同社は上場来初の赤字に転落。自然災害によるレジャー低迷の影響もあったが、値引き販売の常態化など、体質的な不全さも大きな課題となっていた。そこで水野社長が改革の軸に据えたのが粗利率の改善だ。
不採算店舗の閉店および業態転換、希望退職募集によるリストラ、店舗設計見直しによるアルバイト人員の最適化、プライベートブランド(PB)の強化、デジタル化による業務効率化など、この2年は徹底して贅肉を削ぎ落してきた。
一方で他社に劣るEC領域の強化にも着手。併せて、500万人を突破したアルペングループメンバーズ会員の増加やデータ活用による需要の安定化と先取り施策にも取り組んだ。強い危機感を持って臨んだ2年前の大胆な改革がようやく浸透し始めたちょうどその時、コロナが発生したのだ。
通常、こうした改革には強い痛みを伴う。成果が出るまでに時間もかかる。ところが、コロナという緊急事態により、いわば短期集中的に実力が試される機会が到来。同社は見事に成果に結びつけた。21年6月期第2四半期の数字でも、注力していた粗利率は前年同期の40.5%から43.2%に大幅に改善されている。
同社もコロナの影響を受け、マリンや競技スポーツなどは低調だった。たが、売れ筋の見極めや在庫圧縮などで、ダメージを最小限に抑え込んでいる。
コロナ発生後、「あらゆる施策を5年10年前倒しでやらなければいけなくなった」という経営者の声があちこちで聞かれる。同社は、幸か不幸か、絶好のタイミングで企業としての抜本改革に取り組む必要に迫られた。そして、それをやり遂げた。これこそが、コロナ禍で際立った同社躍進の“真実”だ。
さらなる業績向上へ向けた4つの強化ポイント
来期(22年6月期)以降へ向け、さらなる業績の向上を目指す水野社長は、4つの強化ポイントを挙げる。1)アウトドア・ゴルフの強化、2)PBを含むスポーツアパレルの強化、 3)デジタルトランスフォーメーション(DX)のさらなる推進、4)サステナビリティ対応の強化だ。
注目は、DXのさらなる推進。ひとつは、500万人を突破した会員データを活用したAI等による需要予測やVR・ARを活用した新しい体験の提供だ。これらは、引き続き予断を許さないコロナ禍におけるマーケティングを、次世代型に進化させる取り組みといえる。
さらに物流拠点に3Dロボット倉庫システムを導入し、省人化を推進。また、発注や商品管理、人事システム等の社内システムを刷新し、業務効率化を一層推進する。こうした内外のDX施策は、非常時に強い体質への改善につながるものであり、ポストコロナを見据えても理にかなっている。
コロナ禍で伸びる企業は何が違うのか
攻めるところは攻め、捨てるところは捨てる――。同社躍進を端的に表現すれば、そういうことになる。言い古された成功の鉄則だが、これを徹底できるかできないか。コロナ禍だからこそ、こうした大胆さが伸びる企業と転落する企業の分岐点になるといっていいだろう。
典型はアパレル業界だ。ユニクロやワークマンを筆頭にコロナ禍でも躍動する企業は、社会の変化を敏感にくみ取り柔軟にスピーディーに対応。攻めどころには躊躇なく投資する。一方、沈むアパレルは、自らのブランドに固執するがゆえに動きがもたつき、結果的に後手に回って失速する。
アルペンでいえば、祖業はスキー。ところがいまや脱皮を果たし、その面影はほんのり程度で、スポーツ全般を扱うブランドとして浸透している。企業として何にこだわるのか。本質として、そこが問われているのが、コロナ禍における生存、そして成長戦略の肝といえるのかもしれない。
同社躍進の裏側には、コロナ禍の経営で参考にすべきヒントが詰まっている。