前回、テナント開発とは、単にテナントを見つけて誘致することではなく、良い商品やサービスを見抜き、企業を資金面からも支援し、その成長からリターンを得るビジネスに変えないとこの先、ショッピングセンター(SC)のテナントリーシングは先細りになることを指摘した。
この考え方はテナントリーシング業務に限定されたものではなく、SCのビジネスモデルの根幹に影響する大きな変革を求めている。今回は、その視点をもう一歩進めていきたい。
賃料収入は減少する 忍び寄るSCビジネスの限界
この連載で幾度となく指摘しているが日本人口の減少は残念ながら止まることは無い。
むしろ、このコロナ禍によって出生率はますます低下し、政府の予測を上回るスピードで人口減少は進む。
現在、唯一増加している東京圏でさえ2025年には減少に転じる[1]。ということは、売上連動で収入が決まる百貨店やショッピングセンターには残念ながら厳しい未来が待っている。
この現状に対して何ら対応をしない限り、現在の何万平方メートルという賃貸床はスラム化の道を歩むことになる(海外では既に始まっている)。
SCビジネスが「不動産価値×テナント売上高」で成り立つ限り、この2つのパラメーターを上げるしかない。それがテナント巡回、テナント指導、テナントコミュニケーション、接客ロープレとなるわけだが、人口減少下にあって、掛ける時間とコストを考えるとどれだけ奏功するのか。担当者は薄々気づいていると思う。
[1] 東京都政策企画局honbun4_1.pdf (tokyo.lg.jp)
ポストコロナのテナント開発と
賃料ビジネスからマルチ収益への転換
この環境下において、これまでのテナント開発(テナントリーシング)が有効性を持ちづけることは難しい。これまでのテナント開発は、人気テナントや新規性のあるテナントを誘致するものの内装負担や商品リスクはテナントが負担し、SC側は固定賃料(最低保証賃料)でリスクを回避した。
確かにこれまではSC内の好立地(区画位置)を賃借し、売上を上げればテナントは投資を回収できた。しかし、コロナ禍はその前提を根底から覆したのだ。
結果、これまでのSCのリスクとリターンを見直す時期に来ていることを「テナントリーシング(テナント開発)業務」を一例に前回指摘したが、この状況はコロナ禍によって発生したものではない。筆者は以前から「テナント売上から収入を得る考え方は早晩行き詰まる」と指摘してきたが、この「行き詰まり」の日が単に早まっただけなのである。
ここで勘違いして欲しくないのは、SCのすべてのテナントに対してこのような対応をすべきだというわけではないということだ。テナントのコンディション、成長ビジョンなどから連携方法は無数にある。リスクを取ってチャレンジしたいテナント企業もいる。何がベストなのかはその状況に合わせることだ。
テナントリーシング業務をテナント企業からの配当や上場益を狙うビジネスへ広げることと同様のことは、他のビジネスへも応用ができる。
実際、SC内で行われる商取引は無数にあり、そこから発生する利得をSC企業はどれだけ真剣に考えたことがあるだろうか。
これまで人口が増加し経済が成長した時代は、あまり細かいことを考えるより、人気テナントとうまく付き合うことを優先した方が収入に直結し、仕事もその方が楽しかった。
しかし、今はそう簡単では無い。市場は縮小し、テナントも減少し、売上も低下すれば、今のビジネススタイルをそのまま続けられるはずもない。
その時、どうするのか。それはSC事業を行う際、発生する事象をどうやってマネタイズするか、そこに着目するしかないのだ。
SC事業の経営資源とは何か
SC事業は、多くのお客様が来店し、多くのお金を消費する。そのお客さまの生涯価値(Life Time Value, LTV)のうち、SC事業者はどれほどビジネス領域としているのか。今はお客さまが財布を開いた結果の「テナント売上高×賃料率」だけではないのか。
もっと他には無いのか。コロナ禍で時短営業と自粛で売上が悪い今こそ、それを考える絶好のチャンスなのだ。
ここまで書くと2つのタイプの読者が出てくる。一人は「あなたの話は具体的じゃない」と言い、もう一人は「あなたの話からヒントをもらった」と言う。
この違いは何か。それはイマジネーション力だ。
日頃、課題感を持って悩み苦しんでいる人や目標やビジョンやなりたい姿を描いている人は即座に「あっ、そうか!」とイマジネーションが働く。
ところが日頃漫然と情報だけを集めている人は、イマジネーションは働かず、答えを欲しがる。面白いものである。
さて、次回は、イマジネーションが今ひとつ働かなかった方にもヒントとなるよう今回、少し触れた「SC事業とLTV」について書き進めたいと思う。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。