第262回 ライフコーポレーション清水信次が語った、ダイエー中内と夏の敗戦
評伝 渥美 俊一(ペガサスクラブ主宰日本リテイリングセンター チーフ・コンサルタント)
「菜っ葉1把、大根1本」
初めて会った主婦の店ダイエーの中内㓛に、名刺を差し出すや、一瞥(いちべつ)をくれただけで「俺は、小売りって言葉、嫌いなんや」と居丈高な嫌味をいわれた繊維小売新聞の記者だった田中政治は、自らの仕事をいきなり否定されたようで、むかっ腹を立てた。
「大売りだよ、これからは」
のちの流通王は、長いつきあいとなる人びとに、あくの強い不 遜(ふそん)な印象を刻みつけていく男であった。
超繁盛店として日本中にその名が轟(とどろ)く中内が勝ち誇った表情でそうつづけるのを聞いて、40年も前の記憶を生なましく振り返るように「腹ん中じゃさ、なにをいってんだよ、と思ったね」と田中はこめかみに青筋を立てた。