新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、2020年4000万人を目標にしてきた訪日外国人旅行客数(インバウンド)が、一気に消えてしまった。20年5月に至っては、前年の約277万人に対し、わずかに1700人。インバウンド拡大による成長に期待していた企業には辛く厳しい状況になっている。
2020年5月の外国人観光客数 99.9%減
2020年5月の訪日外国人観光客数は対前年度月比99.9%減(日本政府観光局調べ)。1~5月までの累計でも、同71.3%減となっている。
訪日外国人観光客需要の拡大を成長の頼みとしてきた企業や業界にとっては、このインバウンド消失による喪失感は計り知れない。
たとえば百貨店業界がそうだ。百貨店協会によれば、20年1月の免税総売上高は対前年同月比20.9%増だったが、2月以降は一気に数字を落とし、5月に至っては同97.5%減という悲惨な状況だ。
ドラッグストア(DgS)業界にも、これまでにない影を落としている。
商業動態統計速報(経済産業省)によると、DgSの20年2月の全国売上は新型コロナウイルス感染予防商材の売れ行きが好調で、同18.9%増に達した。しかし、3月に入ると、インバウンドで潤ってきた東京・大阪・沖縄で、販売額が前年実績を下回り出した。厳しい状況下、インバウンド需要の取り込みをねらって出店した店舗の閉店に動くDgSも現れた。
いち早くその動きを見せたのがダイコク(大阪府)だ。この数年、沖縄や北海道の観光立地への出店を積極的に進めてきた同社だが、沖縄の地元紙によれば、3月に沖縄県内の2店舗を閉店、2店舗を休業した。19年8月期末時点では14店舗を展開していたが、現在(20年7月)は6店舗まで減らしている。
ツルハホールディングス(北海道:以下、ツルハHD)は5月16日付で15店舗を同時閉店。そのうち9店舗(洞爺湖温泉店、名古屋栄3丁目店、京都駅東塩小路店、四条高倉店、道頓堀中央店、神戸元町店、西鉄天神駅北口店、中州店、西中洲店)がインバウンド対応の店舗だ。
同社の鶴羽順社長は、20年5月期の決算説明会で「インバウンド売上がほぼ消失した」と、新型コロナウイルスの影響の大きさを口にした。
コスモス薬品(福岡県)は、これまで年間の閉店数は10店舗に届くかどうかだったが、20年4月だけで8店舗、そのうち6店舗がインバウンド需要をねらったもので、2月開業の池袋東口店も含まれている。
外出自粛で化粧品販売額が減少
新型コロナウイルスは、国内での外出自粛による化粧品売上の大幅な減少も引き起こした。
商業動態統計によれば、DgSにおけるビューティケア(化粧品・小物)の販売額は、「感染爆発の重大局面」として東京都から週末の外出自粛要請(3月25日)が出された3月以降、対前年同月比2ケタ減が続いている。
インバウンドの消失とビューティケアの販売減。この両者の影響をもろに受けたのが、マツモトキヨシホールディングス(千葉県:以下、マツモトキヨシHD)だ。同社はインバウンド対応に特化した店舗を展開しており、化粧品の売上構成比も約4割とほかのDgS企業に比べて高い。そのため3月以降は、インバウンド売上の激減と、化粧品部門の売上ダウンのダブルパンチにより、事業会社マツモトキヨシ(千葉県)の既存店売上高対前年同月比は3月14.7%減、4月18.9%減、5月18.9%減と苦しい状況が続いている。
今後、新型コロナウイルスの影響はどうなっていくのだろうか。
観光庁長官は、6月17日の定例会見で「20年のインバウンドは対前年比6割から8割減」とのコメントを残した。
5月28日にJR九州ドラッグイレブン(福岡県)をグループに加えたツルハHDは、同社の業績を含まず、さらに「前期のような新型コロナ関連の需要増は織り込まず、インバウンド売上もゼロ」(鶴羽社長)としたうえで、21年5月期の予想売上高を「対前期比2.3%増の8600億円」とした。
一方、ココカラファインとの経営統合後に「美と健康の分野でアジアナンバーワン」をめざすマツモトキヨシHDは、21年3月期の売上高予想を「同3.5%減の5700億円」とした。
6月下旬には、新規感染者数の安定を見て、県境を越えた移動自粛が解かれ、飲食店の営業も通常に戻った。しかし、それから2週間後には、首都圏を中心に感染者が再び増加している。この変化が、今後の企業の業績にどう影響を及ぼすのか、今からその答えを探すのは難しい。