低所得者向けの決済サービスにチャンスあり? コロナ禍の米小売で深刻化する「硬貨不足問題」
クローガーが硬貨による釣り銭を停止
7月13日には、米食品スーパーの大手クローガー(Kroger)が現金決済での1ドル未満の釣り銭が発生した場合は、次回の買物時に利用可能なクレジットを同社のメンバーカードに付与するか、慈善団体へ寄付するかの選択とし、硬貨を渡すことを暫定的に停止することを発表した。900店舗のコンビニを展開しているワワ(Wawa)や、中西部で大型スーパーを250店舗出店しているマイヤー(Meijer)でも、クローガーと同様に、硬貨による釣り銭に制限を設け、顧客に対して釣り銭が出ない支払いを要請している。
「クレジットカードや小切手の普及によりキャッシュレス経済になっていると考えられていた米国においても、現金の製造や流通の停滞が経済活動に及ぼす影響は小さくないという現実が改めて浮き彫りになった」(高島氏)。
低所得者向けの決済サービスに可能性アリ?
連邦預金保険公社(FDIC)の2017年に実施した調査によると、米国では、低所得層を中心に、全世帯の6.5%が銀行口座を持っていないという。そうした世帯は、クレジットカードやデビットカードも持つことができないため、現金が唯一の決済手段となっている。
一方で、こうした現金しか使えない層への配慮もなされている。たとえば、「アマゾンゴー(Amazon Go)」のようなカード決済を前提とする無人店舗が登場した際は、マサチューセッツ州等の3つの州や約20の自治体では、小売業者に対して現金での決済を義務付ける法律や条例が制定されている。
こうした米国特有の事情について、三井物産戦略研究所の高島氏は「米国の格差社会の一側面」と前置いた上で、「同時に、中国をはじめとする新興国で普及が進んでいるQRコード決済のように、クレジットカードや銀行口座を必要としない決済手段に対する潜在的なニーズが、米国においても存在していることの証左でもある」と指摘する。
資産を持たず信用力の限られた消費者を相手にする事業では、新興国のビジネスモデルが先行している部分も少なくない。低所得層向けの決済サービスは、米国市場において展開可能な、新興国モデルの有力候補の1つと言えるのではないだろうか。
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