メニュー

アフターコロナの小売像その6 存在感増す“EC3強”

コロナ禍を経験した5年後、10年後の小売の世界では、ECの存在感がより強くなっている可能性が高い。国内の“EC3強”であるアマゾンジャパン(東京都)、楽天(東京都)、そしてヤフー(東京都)を擁するZホールディングス(東京都)は、アフターコロナの世界でどのような存在になっているのだろうか。

2009年8月撮影(2019年 ロイター)

拡大見込まれるEC市場

 野村総合研究所の調査(「ITナビゲーター2020年版」)によると、2018年度に17兆9845億円だったEC市場の規模は、25年度に27兆8000億円まで拡大するという。

 また、消費者がネットで情報を得てから商品やサービスを購買する「オムニチャネルコマース」は25年度に19年度比1.4倍となる80兆6000億円(*EC市場を含む)まで拡大すると予想している。この予測のとおり市場が推移するのであれば、EC市場は今後約5年で、現在のコンビニエンスストア市場(約10兆円)と同程度、拡大していくことになる。

 ただ、国内市場が少子高齢化で縮小傾向にある中では、「どこかが増えればどこかが減る」というのは必然だ。つまり、ECの市場が拡大していくということは、リアル店舗の売上高を食われていくことを意味する。

 国内EC大手3社のEC事業の規模を確認してみると、楽天の国内EC流通総額は約3兆9000億円(トラベル事業などを含む、2019年12月期)、Zホールディングスの物販取扱高(サービス・デジタル含む)は約2兆6000億円(20年3月期)。アマゾンの日本事業の売上高は約1兆7000億円(19年12月期)で、ここにマーケットプレイスの売上高を足すと3兆円とも推測されている。

 今後約5年間でEC市場が10兆円規模で拡大していくとなれば、これら大手3社の流通総額、あるいは売上高も数兆円規模で増えていくとみていいだろう。

リアル小売と接近!? “EC3強”の戦略は

 EC大手3強の当面の戦略を見てみよう

 3社の出店者数は楽天が約5万、さらに、ZHDのヤフーショッピングが85万超。アマゾンは現在、出店店舗を公表していないが、最後の公表した2015年時点で17万8000店が出店している。なお、楽天の出店者数がヤフーやアマゾンと比べて少ないのは、初期登録費用など最低でも30万円近くのイニシャルコストがかかるためとみられる。

 市場拡大に伴い、これら“EC3強”の出店者数も増えていくのは間違いない。そうした中、楽天やZホールディングスは、リアル小売との提携を拡大する動きを見せている。

 その代表例が、楽天が推進する「楽天ポイント」によるリアル店舗の取り込み戦略だ。同社はかねてより、自社ポイントを発行することでリピーターを増やすとともに、リアル店舗と提携し、ポイントを利用できる場所を次々と増していくことで、楽天ポイントを軸とした「楽天経済圏」を構築している。また、ネットに販路を持つリアル小売や外食事業者が楽天運営のモールに出店するなど経済圏は相乗的に拡大しつつある。

 Zホールディングスは、モバイル決済サービス「PayPay」を突破口に、有力サービスと次々と提携し、2019 年には自社運営の「PayPayモール」も立ち上げ、大手小売業と相次いで提携を結び、オムニチャネル的な施策も始めている。さらに、Zホールディングスは20年10月をめどにメッセンジャーアプリ大手のLINEとの経営統合を予定するなど、今後、各サービスの連携による経済圏構築が期待されている。

アマゾンはどう動く?!

 その一方で、アマゾンの日本法人であるアマゾンジャパンは、今のところネットスーパー事業で食品スーパー大手のライフコーポレーション(大阪府)と提携しているに過ぎない。ただ、米国では、自社食品スーパーの展開計画が報じられるなど、リアル事業に乗り出す動きが観測されている。

 アマゾンの食品スーパーが、傘下のホールフーズのノウハウを活用しているかどうかは定かではないが、今後日本でもリアル店舗、あるいはネットスーパー用のダークストアを展開する可能性はゼロではない。

 「(我々はアマゾンの)やっていることに追いつかなければならない」

 イオン(千葉県)の岡田元也会長の発言だ。この言葉どおり、イオンでは21年から英ネットスーパー大手、オカドとの提携によるダークストアスタイルのネットスーパーを本格展開する計画だ。イオンは、このネットスーパーを橋頭保に、既存のEC事業の巻き返しを図っていくとしている。「リアルからのEC拡大」の成否に注目が集まっている。

 アフターコロナは、「店舗」や「ネット」といった“色分け”がない世界に突入していくと思われる。価格は当然として、利便性や周辺サービスで優位性を持てたECが支持を集めていくのは間違いない。