抜本的な事業改革が迫られている百貨店業界で独自路線をすすむのが丸井グループだ。近年掲げてきたメッセージは「モノを売らない店」。デジタル技術を活用してショールーム機能を強化した「特化型店舗」に活路を見出している。誘致に力をいれるのは、ここ最近話題にのぼる「D2C」ブランドだ。「週刊東洋経済」記者として百貨店、流通業を取材してきた梅咲恵司氏の著書「百貨店・デパート興亡史」から、その戦略を一部編集してお届けする。
モノを売らない店が「安定収益源」となる理由
本書で何度か取り上げてきた丸井グループは、オリジナリティのある店舗づくりを模索 している。同社は数年前から、「モノを売らない店」を標榜する。モノを売らない店とは、 デジタル技術の活用によりショールーム機能などに特化した店舗のことだ。
丸井は「モノからコト」へと消費のトレンドが移っていることを捉え、2015年ごろ から事業モデルの転換を進めてきた。モノを仕入れて販売する百貨店型から、飲食店など テナントの賃料収入をベースとする不動産型、ショッピングセンター型へ移行してきた。
丸井は次の戦略として、ショールーム機能などに特化した店舗や飲食店などで構成する「デジタル・ネイティブ・ストア(=モノを売らない店)」の実現を目指す。丸井にとって、モノを売らない店は安定収益源となる。たとえ店頭での売り上げがなくても、テナントとの不動産契約による家賃収入が定期的に入ってくるからだ。
丸井グループの青井浩社長は、モノを売らない店を標榜する理由について、次のように語る。
「今や、スマートフォンで、いつでもどこでも、モノを買うことができる。店舗で 買うよりも、ネットのほうがよっぽどスムーズ。その中で、店舗はどのように生き残っていくのか。その答えの一つとして、店舗の役割を販売する場所から『体験する場所』へと 変えている」
顧客の身体サイズだけでなく趣味嗜好もデータ化
丸井がここ数年、誘致に力を入れているのが、「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシュー マー)」ブランドだ。D2Cとは、定義はまだ明確ではないが、消費者に直接商品を販売 する形態という見方が主流だ。
ECを活用するケースが多いため、リアル店舗の必要がないようにも見えるが、消費者との接点をつくる目的でリアル店舗を出す企業が、ここにきて増えている。 日本の代表的なD2Cブランドの一つである「FABRIC TOKYO」は、2019年11月時点で全国に16店舗を構え、そのうち丸井には6店舗を出店している。
同社は、ネット上でスーツやシャツをカスタムオーダーできるサービスを打ち出す。紳士服チェーンなどの、量産型のいわゆる「吊り下げ」スーツではなく、「個々の体型に合ったぴったりとしたスーツを着たい」とのニーズがある20 〜30 代のビジネスパーソンを中心に支持を得ている。
FABRIC TOKYOの森雄一郎社長は、2019年10月に行った東洋経済のインタビューに際し、「われわれが手掛けるサービスは、カスタマーエクスペリエンス (顧客が感じる心理的価値)向上につながる。顧客との距離が近いので、ダイレクトな訴求・ 情報交換ができる」と強調した。
D2Cブランドはメガネや靴、スーツケースなど、特定の部分に特化したニッチな商品を展開するケースが多い。丸井は、こういったニッチなニーズを捉えたD2Cブランドを囲い込むことで、商業施設をバラエティ豊かなものにし、活性化することをもくろむ。
「ECは今後、大手一極に集中していく可能性がある。それではおもしろくない。多種多様なものがある豊かな世界をつくっていかなければならない」。青井社長は、そのように言葉に力を込める。