第125回 「駅ビル」が抱えるリスクを百貨店の歴史から考える

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)

百貨店の歴史からみる駅ビルのリスク

 しかし、これまでの2030代女性をターゲットにする方法には、やや陰りが出ている。なぜなら、想定を超える人口減少と少子高齢化により、年齢別人口構成は今や20代女性(4.7%)30代女性(5.1%)の両方足しても1割に満たないからだ(図表①)

図表1 日本の年齢別人口構成(2024年)
図表① 日本の年齢別人口構成(2024年)

 とくに地方圏でこの減少が顕著だ。首都圏のような流動客の分母がない駅でのターゲットセグメントは市場規模を限定し、東京の成功モデルを地方圏の駅ビルに横展開しても思ったとおりの結果が出ないケースがある。加えてコロナ禍の外出制限も大きく影響した。

 さらに、提供価値の高額化の影響もある。日本経済は安定しているとは言え、賃金上昇もなく、国民の消費力はそれほど上がっていない。ファストファッションの台頭や各商品カテゴリーにおける価格破壊、そして通信販売の登場により、洋服だけでなく、眼鏡や家具や飲食などでも価格が低下し、「安い日本」と揶揄される。駅ビルは流動客の多さから安定的な集客と購買力をもつため、セレクトショップなど比較的高額な商品を扱うテナントも多い。上質さを提供する場所となる一方で「駅ビルでは高くて買えない」という20代も増え、市場から徐々に離れていることを危惧する。

 この状況は百貨店の状況と似ている。百貨店は、都市圏で支持を広げた成功モデルを地方都市に広げるも、ラグジュアリーに偏重したことで、市場から離れ、徐々にその力を失った歴史をもつ(図表②)。地下食品、1階からラグジュアリー、ミス、ミッシー、ミセス、紳士、子供、家庭雑貨、催事場、レストランというフロア構成を全国隅々までつくった百貨店の都市型成功モデルは、商圏というマーケットにアタッチする必要があったはずである。

図表2 百貨店売上高推移
図表② 百貨店売上高推移

駅ビルのあるべき姿とは

 ビジネスにおいて、一度成功し、そこに定義ができた途端に、衰退の道を歩むことは少なくない。今では全国どこの駅ビルに行っても同じようなセレクトショップのデュフュージョンブランドや類似の食品スーパーが並ぶ。これがマーケットの要求であれば何も問題はない。しかし、開発する側に「駅ビルとは」「駅ビルとはこうあるべき」と言った偶像が出来上がり、一部の首都圏の成功モデルを追い掛けているのであれば、商圏から支持を得られないことにもつながりかねない。

 駅ビルは成功モデルに捉われることなく、定義にも縛られることなく、立地する商圏に合わせた顧客価値を提供し続ける存在であってほしいと願う。

西山貴仁 
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

小田原市商業戦略推進アドバイザー、SCアカデミー指導教授、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

 

 

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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