第125回 「駅ビル」が抱えるリスクを百貨店の歴史から考える
先日、「今年から駅ビルの担当になったので駅ビルを勉強したい」と相談があった。駅ビルは建築物の形態を指す言葉なので「駅ビルの勉強?」と違和感を覚えたが、その方にとって「駅ビル」は何か定型化されたものなのだろう。そんなことを感じながらも最近開業した駅ビルと言われる商業施設を見た時、そこに明確な定義があると感じた。今回は、駅ビルとは何か、そして駅ビルが抱えるリスクについて考えてみたい。

駅ビルのビジネスはSCと同じ不動産賃貸業
そもそも「駅ビル」とは何だろうか。駅の上にあるビルなのか、駅に隣接するビルなのか、鉄道会社が駅と一体でつくるビルなのか。そして用途は、商業なのか、オフィスなのか、ホテルなのか、今ひとつ釈然としない。
ビルという形態であれば、その用途は限定されることは無いが、前出の「駅ビルの勉強」においては、駅ビルは鉄道会社の経営する駅一体型の商業施設のことを指している。
ある時、駅ビル運営会社の若手社員に「不動産会社に入社したから宅建士を取らないとね」と伝えると「不動産会社に入った認識はありません」と回答が返ってきた。何の会社に入ったかを聞けば「駅ビルです」とのことだった。この若者には「駅ビル業」という定義が出来上がっているようだったが、駅ビルでのビジネスは賃貸区画をテナントに貸す不動産賃貸業である。ショッピングセンター(SC)は、賃貸区画を商業テナント(物販、飲食、サービス業種)に賃貸し、家賃を収受する不動産業の1メニューである。
消費地の移動により誕生した駅ビル
戦後、住宅地の郊外化により首都圏を中心に鉄道での生活が定着する。その社会的変化により消費地は、それまで「オーパ」「マルイ」「パルコ」などのファッションビルが立地した中心市街地から、徐々に駅前に移り始める。
1970~80年代は、街とファッションビルと雑誌と若者によって新たカルチャーが花開いた時代だ。いつしか「マルイはどこ?駅のそば、駅はどこ?マルイのそば」というテレビCMが流れるようになる。今思えば消費地の動きを表していたのだろう。この生活行動と消費者行動を捉えたのが駅の商業施設である。
次第に「ルミネ」「アトレ」「ミオ」などのブランドが生まれた。そこでは、鮮度やトレンドや新奇性を前面にプッシュするマーケティングを行っている。流動客のなかでも若年層、とくに女性にターゲットを絞り、セレクトショップと呼ばれるファッションブランドを中心とする商業施設をつくることで、その地位を強固なものにしていった。首都圏での成功モデルは全国に広がり、今や多くの駅ビルブランドを見ることができる。
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