イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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「トレンドの発信」で弱みを打ち消す!

operofilm/istock
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 イタリアの紡績の強さは、トレンドの色を追いかけるのでなく、「トレンドを発信できる」点にある。発信できるから、「来年はこの25色でいこう」という具合に色をしぼることができる。そしてカラーカードをつくって「これ以外の色は染められません」と「上から目線」でバイヤーサイドと接する。それでも、日本のアパレル企業は、自分では流行をつくれないし、失敗するリスクを負いたくない。「イタリアのxxx社はこれが流行ると言っていた(から仕入れた)」と人の責任にできるからよく売れる。このように、イタリアは余剰在庫を抱えることを、「色を発信」することで回避しているのだ。

 もうひとつ、イタリアの紡績の強さは、”LABO(ラボ)” といわれる企画室を設置している点にある。そこに世界の一流デザイナーやクリエイターを招聘して、あれやこれやと編み地をつくるのだ。この”LABO”には試紡(しぼう)といって、サンプル作成用の編み地を使ってどんな複雑な素材でも数分〜数時間でつくってしまう。そして「ああでもない」「こうでもない」と議論を交わし、双方にとってよいものをつくる。

 このとき、デザイナーは、できあがった編み地を見て、自分がつくりたいサンプルを頭の中でイメージできるのだ。日本の紡績工場だとそうはいかない。酷い例だと、糸の段階で「どうですか?この糸は穴が6つあいていますよ。昨年は5つでしたよね」など、その「穴」が何のためにあるのか分からずに技術ドリブン(技術優先)でものをつくりがちだ。これでは単価をあがらないし、トレンドの色を追いかけざるを得ない一方、サンプルのロットが大きすぎるという欠点も解消できない。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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