潮目の英・老舗デパート「ジョン・ルイス」がイノベーションアワード最高賞 を獲った理由

松浦 朝咲
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ジョン・ルイス(John Lewis)グループの「持続可能性」への改革 -高まるトレンドを契機に小売の意味を問う-

 近年、ジョン・ルイス(John Lewis)はイギリス国内で関心が高まる「環境配慮」への取り組みを積極的に進めている。直近の経営状況が芳しくない中で、新たな戦略に踏み切るのは簡単なことではない。2019年、RTIHが同グループにリテールイノベーションアワード最高賞を与えたのも、このような取り組みへの敬意を表し、評価したためだ。

 当たり前のことだが小売では商品を持ち帰る際、プラスチックの買い物袋や包装材が使われる、その量は決して少なくない。
同社はオンラインで注文し、店舗で受け取る「Click &Collect」で使用される包装材を100%リサイクルのものに変えた。また、美容製品の空パッケージや愛用して不要になった洋服などを、店舗に持参した顧客には商品券を渡す施策もはじめた。この取り組みはジョン・ルイス(John Lewis) オックスフォード店で試験的に開始されて以降、注目を集める。

 さらにWaitroseでは、シリアルやパスタ、穀物などの製品のプラスチック包装を減らすため、顧客が持参した容器に入れて量り売りをするリフィル・バーを店内に設けた。

 すべての施策に共通するのは、顧客が実店舗に訪れて「環境保護への取り組みに直接参画できる」という点である。もともとロイヤルカスタマーの多いジョン・ルイス(John Lewis)とWaitrose。そこに近年、イギリス国内で一般化する「個人レベルから環境問題に取り組むことはクールである」という思想が上手く合致した。環境問題に関わること、その姿を見せることでまわりにも波及させようというトレンドが、これまで遠のいていた「実店舗への来店動機」となった。

リフィル・バー
(引用元:Retail Gazette)

 また、同グループが「農業ロボット」の本格的な実用化に向けて取り組みを進めていることも、リテールイノベーションアワード最高賞の受賞につながった。

 ここ数年、イギリスではロボティクスの研究開発、商用・産業化を進めるベンチャーが急増している。ジョン・ルイス(John Lewis)はSmall Robot Companyと正式に提携し、今後のロボティクス活用にあたり倫理的な観点からの考察を含めた、人間とロボットのインタラクション(Human Robotic Interaction, (HRI))についての青写真を描き始めた。

 さらに、Waitroseの専用ファームで行われている農業用ロボットのトライアルも注目を集めている。イギリスのハンプシャー地方、レックフォードでは3台の農業用ロボットが大地を駆け巡る。1台あたり10kgほどの小さな本体にはカメラ、温度・湿度センサーなどが搭載され、地形データをはじめとする「ビッグデータ」を収集することができる。そのデータを機械学習にかけることで、耕作コストの減少、化学農薬の使用減、さらには生産計画の見直しにも役立つという。コストを抑えた生産のおかげで、売上を40%から60%伸ばすことができる見込みだ。

 人件費の問題、欧州連合(EU)離脱による農作物関税の増加への懸念、そして消費者の注目が高まる環境問題への配慮を包括的に解決する現実的な取り組みとして、このプロジェクトは大いに評価されている。

農業用ロボット
(引用元:Waitrose & Partners

企業の「持続可能性」を念頭に、ジョン・ルイス(John Lewis)は苦境のなか挑戦することをやめない。

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