第91回 ショッピングセンターのデータ活用戦略とその限界

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)
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近年、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を冠にしたサービスが多い。でも、よくよく聞いてみるとデジタル化によるペーパーレスだったりする。確かに人口が減り、高齢化によって労働人口が減少する中、人が介在することを減らし、省人化を進めることは大切ではある。一方でデジタル化は、作業の効率化、残業の削減と言った視点だけでなく、データの蓄積も可能になり、新たに得られるデータも増加する。それらを単なる数値の羅列ではなく、戦略へと昇華させたい。今回は、ショッピングセンター(SC)運営のデータ活用の現状について考えたい。

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SC運営におけるデータ活用の現状とデータ活用のステップ

 現実には、入館者カウンターを設置していないSCが相当数存在する。どれほどの人が来ているのか、前年と比べて減っているのか増えているのか、来館した人がどの店に入ったのか、何時間滞在したのか、などすべて分からない。

 「今、館内に何人いるのか?」「車で来た人は何割? 車で来た人の買上単価は?」「男女比は?」「年齢は?」「新規客は?」「ご飯を食べた人は?」「子供は?」……そう、すべてが分からない状態で日々運営が行われている。非常に不安な状態である。

 一般的にデータ分析により戦略策定を進めるステップは、まず、データの整理・統合からスタートする。次はセグメントに分類し、クラスターを認識する。その上で集計分析し、戦略の設計と進み、実行・評価へと進む。

 ここで注意すべきは、そもそも活用出来るデータが無ければ分析はできず、リピート率や会員数のデータが補足出来なければ、顧客満足度を計測出来ず、戦略目標として設定しても達成度を評価にすることは不可能である。

 本連載87回で「顧客の囲い込み」は、①リピート率の向上、②カード会員数の増加、③客単価の向上、この3つが代表的なKPIだと指摘したが、これらの数値の把握が出来なければ、「顧客の囲い込み」を目標にしても、それはスローガンに終わる。スローガンとして叫ぶことで社員一人一人の日々の業務の取り組み姿勢を規定するので、それなりに価値はあると思うが、やはりビジネスの場では数値化したい。

 したがって、現存するデータを確認し、分散していれば整理、統合することで描ける戦略領域の範囲を特定することがまずは最初の行動である。

図表1 データ活用による戦略策定のステップ

データを知識に変える「DIKWモデル」

 ここで注意したいのは、

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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