スーパーマーケットが地域に密着するために必要なものは何でしょうか?商圏ニーズに合った品揃えや価格帯、サービス、接客、利用しやすい立地などなど要素はたくさんあると思われますが、要するに商圏に暮らす人々に好感を持たれること、と突き詰められるかもしれません。地域密着を目指す本道は先に挙げた諸要素でしょう。でもまだほかに、地域の好感を得ることにつながり得る追加的な手法があるようです。地域と共に、地域の何かを「推し活」することです。
越谷の地縁でバスケチームを応援する東武ストア
企業が特定のスポーツ選手やチームに協賛することは、食品業界では一般的に見られます。個人や団体のスポンサーになって、選手を広告や販促に活用するたぐいのものです。スーパーマーケットでも企業としてチームを応援したり、地域単位で地元チームに協賛したりという例は見られますが、2023年12月7日オープンの東武ストア越谷店(埼玉県越谷市)は、バスケットボールのBリーグB2に加盟する越谷アルファーズを、個店として応援する珍しいケースです。
それも、スポンサー契約を結んだ協賛ではありません。文字通りの応援です。店としてチームを応援するという関係で、関連グッズの常設コーナーを店内に設ける一方、選手は店舗のオープンセレモニーに駆けつけ、総菜部門は選手監修の同店オリジナル弁当を商品化しました。同店が構える東武スカイツリーライン越谷駅構内にも、チームのポスターやら垂れ幕やら、街を挙げて応援していることは分かりました。
オープン日には選手の直筆サイン入りオリジナルワインを陳列し、女性客が次々と手に取って瞬く間に無くなる光景を目にしました。コラボ弁当はガッツリ系の商品でしたが、これも女性客がどんどんカゴに入れ、供給が追いつかないほどでした。それらの女性客は、東武ストアの主要客層とは異なるように見えました。越谷アルファーズとのつながりで、東武ストアの客層が広がるかもしれません。
冷静に考えると、スーパーマーケットの個店がバスケットチームを応援することに必然性はありません。しかし、あえて推すことで生まれる共感もあるということを目の当たりにしました。今後もコラボ弁当の開発は続くと言いますし、他にもさまざまなチーム応援企画が考えられそうです。
新宿の地縁で「とうがらし」推しのダイエー
ダイエーは、今年4月と11月に東京都新宿区内に2店舗を開設しました。両店で推したのは、区の名産品として打ち出す「内藤とうがらし」です。
11月オープンの四谷荒木町店は、内藤とうがらしの関連品を25品導入したほか、総菜やベーカリー、生鮮各部門でも関連商品を開発していました。内藤とうがらし関連で売上げの1%を目指すと言います。
品揃えにとどまらず、近隣に本社を置く理研ビタミンに働きかけ、同社の調味料等と内藤とうがらしを使ったメニューを開発、「レンジで内藤とうがらしのアラビアータ」といったレシピカードを作成しました。やはり近くにある成城中学校にも働きかけ、課外授業として生徒が考案した内藤とうがらしレシピの紹介ボードを店内に設置しました。地域の名産品を品揃えするのは地域密着の常套手段ですが、それをキーに地域活動にまで絡んでいくあたり、四谷荒木町店は「ダイエーの店」というだけでなく、「ダイエーの内藤とうがらしの店」と言いたくなるほどの推しぶりでした。
東武ストア越谷店もダイエー四谷荒木町店も、当然ながら推し活だけで地域密着を図るわけではありません。駅構内の店である東武ストアは、即食中心のコンビニ的内周ゾーンと、スーパー的外周ゾーンのレイアウト構成で、駅利用客の利便性に対応しています。ダイエー四谷荒木町店も、2フロア構成の1階は即食対応、2階は素材対応で使い勝手を高めつつ、近隣の淀橋市場から直送する野菜コーナーを常設するなど地元対応を深掘りしています。
それらをベースに、あえてチョイスした対象を推すことにより、この東武ストアは越谷の店、このダイエーは新宿の店という個性を強めています。新たに付け足した個性によって個店のファンが増えるとしたら、検討の余地がある工夫のように思われます。もっとも、地元の共感を得るには、何を推すのかについてのセンスやインパクトも重要です。