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第80回ショッピングセンターが、過去の成功体験が通用しなくなった大きな理由とは

今から10年ほど前、「ライフスタイルストア」という店舗がもてはやされた。アパレル店舗が、雑貨や家具や子供関連の商品を差し込み、あたかも生活全般をカバーするように商品を広げ、店舗面積を大型化した。この理由は後述するが、消費財を始め、テナントミックスを考えるショッピングセンター(SC)も社会環境や消費者の意識や行動に合わせ進化・対応するなかで、今どのような対応が求められているのか考えて行きたい。

Preto_perola/istock

人口ボリュームの構造変化

 なぜ、雑貨や家具や子供関連が差し込まれたライフスタイルストアが出来上がったのか。これは人口構成の変化が大きく影響する。平成に入ってから家族を持つようになった「平成ニューファミリー」、1971年から1974年に生まれた団塊ジュニアが作る「団塊ジュニアファミリー」、この2つが1990年代から2000年代にかけて大きく台頭し、アパレルを中心とした消費を牽引した。しかし、2010年前後になるとこの塊は40代を迎え、それまでの興味は洋服から他のものに向くようになる(図表1)。要するにアパレルが売れなくなり、その他の施策を色々試した結果が、大きく作用しライフスタイルストアという大型店が開発され、今もその流れを組む店舗は多い。

図表1 2010年の人口ピラミッド 出所:国立社会保障・人口問題研究所

ECの台頭とライフスタイルと生活様式の変化

 2010年から我々の生活を大きく変えたのは、スマホの登場だ。それまでの通信販売がECに置き換わり、物販だけでなく、動画視聴(ストリーミング等)から旅行の予約、支払から決済まですべてがスマホだけで処理が可能になった。リアル店舗の存在価値を大きく低下させ、「リアル対ネット」といったステレオタイプな表現も出るほど、その存在は大きくなり、結果、「ショールーミング」や「D2C」や「BOPIS」と言った機能を店舗が持つに至った。アパレルメーカーによっては過半をECで販売するようになった企業もあれば、そもそもリアル店舗を持たずECだけでビジネスを行う企業も出てきている。

ライフスタイルと生活様式、かつてのSCの成功体験

 SC業界でライフスタイルという言葉を使う際は、人々の生活行動から習慣、価値観、人生観に至るまで広く捉えるが、ここでは狭義に「生活様式」と定義する。これは話を分かりやすくするためだが、消費者の購買行動・購買スタイル・購買の場所は、都市か郊外かと言った住む場所、通勤通学などの日常生活、一人住まいか家族がいるのかといった世帯の状況、マンションか戸建てなどの住居形態、その他、同居する家族構成などの生活様式が基礎にあり、その上で購買の意思決定の段階で価値観が作用するため、まずは基礎的な生活様式から考えたい。

 1990年から2019年のコロナ前に得たSCの成功体験は、①人口と所得の増加による消費市場の拡大、②住宅の郊外化によるモール開発、③集合住宅の広がりと欧米型の住居形態、④モータリゼーションによる商圏の拡大、⑤大店立地法の制定、資産流動化法の改正、定期借家制度の登場、特区による規制緩和などルール変化、そして近年起こる若年層の都心回帰などその都度変化に対応した開発立地やリニューアルを行うことで形成してきた。

成功体験が通用しなくなった理由

 ところが昨今の生活様式は大きく変わった。それが少子化であり、晩婚化であり、生涯シングルであり、女性の社会進出であり、子育ての難しさであり、介護であり、賃金の低迷であり、物価高である。

 以前は、SCの売上が低迷すると、「人気テナントの導入」「接客ロープレの強化」「販促活動」「新業態」などの活動を通して改善を図ってきたが、今やそのようなことを行っても、通用することはない。昔とは生活様式も違えばマーケット規模も全く違うからだ。

 規模も扱う商品も顧客も違う店舗を、同じ基準で審査を行う接客ロープレにどのような意味があるか分からないが、ECが無い時代と同じことを繰り返していても効果は上がらないのは自明である。

 では、具体的にどのような社会環境の変化によって生活様式が変わったのか。次回、その変化と対応策について解説したいと思う。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒