「落とし物」返還率が3倍に!気鋭ベンチャー開発の意外なソリューションと狙う巨大市場とは
電車やタクシーでの移動中、あるいは商業施設を利用した際、ついうっかりしてしまう落とし物や忘れ物。私たち落とし主だけでなく、実は管理する側の鉄道会社や商業施設にとっても大きな悩みの種となっている。
その「落とし物問題」に目を付け、LINEを活用した問い合わせ機能と画像認識AIを活用したマッチングシステムを提供するのが、2021年創業のスタートアップfind(東京都/高島彬CEO)だ。2023年に入って京王電鉄、JR九州と大手鉄道会社が続々と導入を決定。他の鉄道会社や商業施設にも徐々に広がりつつある。
findが提供する「落とし物ソリューション」とは一体どういうものか。同社COO(経営執行責任者)の和田龍氏に聞いた。そこには、多くの人が“見落として”いた大きなマーケットの可能性が拓けていた。
落とした人も預かる施設も厄介な「落とし物問題」
鉄道会社の連絡先を検索し、コールセンターに電話をかけてみるが、なかなかつながらない。何回目かの電話でようやくつながり、落とし物の特徴と日時、路線などを伝えるも、またしてもしばし保留音を流されて待たされる。その挙句に「こちらには届いていませんね」――このように、電車内や駅のホームで落とし物、忘れ物をしてしまい、苦労した経験は誰しもあるだろう。落とし物をした自分が悪いといえばそうなのだが、心が折れそうになる。
しかし裏を返すと、鉄道会社側にとっても落とし物の管理は“お荷物”なのだ。一般的に、コールセンターのオペレーターが1日に処理する電話の件数は30~40件程度だという。しかも鉄道会社が管理する落とし物は膨大な点数に上るので、その中から検索し、照合する作業にも時間を要する。
「落とした人にとっても、落とし物を預かる鉄道会社や商業施設にとっても、抱えている『ペイン』(痛みや悩み)は大きい」と、findのCOO和田龍氏は語る。そのペインをもたらす大きな要因は、多くの鉄道会社が導入している落とし物の管理システムにある。
データベースに登録されるのは基本的にテキスト情報のみ。届けられた落とし物が仮に「ピカチュウのぬいぐるみ」だとすると、もし駅係員が「ピカチュウ」を知らなければ「ピカチュウ」ではなく「黄色いぬいぐるみ」「尻尾がついている」といったキーワードのみが記録される。そうなると、落とし主から「ピカチュウのぬいぐるみを落としました」と問い合わせを受け、オペレーターが「ピカチュウ」と入力したところで当然ながらヒットしない。
このように、係員が属人的に入力するテキスト情報のみを頼りに、膨大な落とし物の点数の中からマッチングさせるのは至難の業で、そもそものマッチング精度にも問題があった。
落とし物管理システムは概して古いものが多く、ある大手鉄道会社では約20年前のクラウドがない時代に構築したものを継ぎ足し、継ぎ足しで使い続けている状態だという。
もっとも鉄道会社にとっては運賃収入や広告収入の確保が主要な経営課題で、落とし物の管理はコストセンターゆえに優先度が低い。加えて、長く運用しているシステムのスイッチングコストもかかる。DXがなかなか進まない領域なのも想像に難くない。