商品開発の教科書「第6回 売価と品質との関係」

桜井 多恵子(チェーンストア経営システムコンサルタント)
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品質はお客のニーズで決まる

 昔からのことわざに「安物買いの銭失い」がある。その意味は、「値段が安いものは品質がよくないから、結局役に立たず銭を捨てたようなものだ」と、下手な買い物を揶揄した言葉である。逆に言えば「値段が高くても品質がよければ、結局そのほうが得になる」ということだ。しかし本当にそうだろうか。

 高使用頻度品や長期間継続使用を見込むものなら、初期投資が大きくても最終的には「得する」ことは多いだろう。

 一方、1回しか使う予定がないなら、値段が高くて、堅牢な品質は不要である。1回の使用を全うしてくれる品質なら、値段が安いほうがお客にとってはありがたいだろう。

 たとえば冬の寒い時期の外出時に、ほぼ毎回着用する防寒コートなら、値段が高くても暖かく、軽く、防水効果も完璧、体に合った、そして繰り返しのクリーニングにも風合いを維持する品質が求められるだろう。それなら数年間使い続けられる。

 しかし同じ防寒コートでも、初めて参加するスキーツアー用なら、高品質より低価格が優先される。未経験のためスキーが好きになれないなら1回限りの着用で、2回目はないかもしれない。たとえ続ける意思があっても1シーズンに何度も出かけられるわけではないなら、やはり低使用頻度品に高額出費は避けたいのである。

 つまり「売価と品質の関係」は、「お客の使用目的によって決定づけられる」ものであって、つくる側、売る側が決めることではないのである。われわれがなすべきことは、複数あるであろうお客の用途に合わせて異なる品質と売価の選択肢を、必要なだけ用意することである。

 もちろんつくる側、売る側にしてみれば最高の品質の品を、それに見合う高価格でお客に買ってほしい。しかしお客の予算は限られているから、つくる側、売る側が「よいものが高いのは当然」という態度を崩さなければ、消費者は新たなライフスタイルに挑戦できないのである。

 最近ではスポーツクラブのサービスレベルが多様化している。プールはない、フル装備のジムもない、風呂もない、そしてレンタルのアスレチックウエアやシューズの提供もない、インストラクターもいないという機能を単純化した施設が一般的になった。

 それでも客層の広い数種類のジムマシンは揃っており、24時間好きな時間帯にお客がセルフサービスで施設を利用できる。

 こうした低価格なスポーツクラブは、利用する客層を広げ、人々の日常の暮らしを豊かにしてくれる。フル装備の高額なスポーツクラブを利用できないお客も気軽に利用できるから、誰もが自身のライフスタイルを多様化できるのである。

 この例のようにお客の求める機能を特定し、必要な品質を完全化する一方、不要な品質を排除して値段を下げる技術を“トレードオフ”という。それについては後日詳しく説明するが、チェーンストアが開発する商品はトレードオフの技術を駆使して、適切な品質の品をより低価格で提供することを目指すのである。

求められる品質4つの条件とは

 消費者に必要な品質は次のとおりである。

 まず、第一にお客の期待を完全に満たすことが求められる。したがって、

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