ツルハホールディングス(北海道/鶴羽順社長:以下、ツルハ)は7月7日、「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を公表し、同社株主であるオアシス・マネジメント・カンパニー(Oasis Management Company:以下、オアシス)の株主提案に100%反対の意向を示した。
最強のアクティビスト、オアシス
香港を拠点とするオアシスは、セス・フィッシャー氏が2002年に設立した投資ファンドだ。
オアシスが日本で最初に戦果を挙げたのが、サン電子に関する案件だ。経営不振のサン電子に対し、オアシスは経営陣刷新を提案、その案が臨時総会で可決されたのだ。かつては「グリーンメーラー」「ハゲタカ」などと“アウトロー”扱いされることも多かったアクティビストだが、近年その流れは変わりつつある。提案内容によっては、信託銀行・生保など機関投資家も賛成に回るケースもあり、経営陣が胡坐をかいていられる時代は終わったと言っていい。
オアシスは最近では、エレベーター大手フジテックの経営陣とプロキシファイト(委任状争奪戦)を繰り広げ、創業家出身の内山高一氏を会長の座から引きずり下ろした。オアシスの主張する「ガバナンス欠如(内山氏と会社との不明朗取引・公私混同)」が機関投資家の賛同を集めた格好だ。内山氏は高額配当をエサにリベンジを画策したものの、あえなく返り討ちにあった。
ツルハはガバナンスも業績も失点なし
一方のツルハは、フジテックと状況が異なる。フジテックは、オアシス以外の機関投資家から創業家が 見放されたかたちとなったが、果たしてツルハで同じことが起きるだろうか。
今のところ、ツルハの業績は好調だ。 売上高は直近10年間で2.5倍以上に増えた。ツルハが圧倒的に強い北海道・東北でのドミナント戦略が奏功しているうえ、M&A(企業の合併・買収)やフランチャイズなどアライアンスも積極的に進めている。
オアシスは「株式保有比率10%未満の創業家が経営を支配するのは問題」と主張するが、経営がうまくいっているのだから、「どこが問題なのか」とも思えてしまう。オアシスが取り上げたガバナンス上の問題も、経営・業績に影響をおよぼしているとは言い難い。「現経営体制で企業価値向上を実現」できるとするツルハ側の主張はまっとうに聞こえる。
強気の姿勢を崩さないツルハ
同族企業のイメージが強いツルハグループだが、創業者一族の持ち株割合は決して高くない。ツルハの2023年5月期第2四半期の四半期報告書によると、創業者一族の所有株式数は取締役会長の鶴羽樹氏が2.91%、創業者の鶴羽肇氏が1.58%、鶴羽弘子氏が2.01%、鶴羽暁子氏が1.96%、これらを全部合わせても1割未満となっている。
大手ドラッグストアは創業家が経営権を握る企業が多いが、上場企業である以上は常に外部株主からの影響にさらされる。最大の防御策は、創業家グループの持ち株割合アップだ。たとえば スギホールディングス(愛知県)は、ファミリーオフィスのスギ商事が持ち株の34.76%を保有、そのほか杉浦克典氏(3.13%)、杉浦伸哉氏(3.13%)が大株主に名を連ね、合計の持ち株割合は4割を超える(2023年2月期有価証券報告書より)。
創業家による持ち株割合の低さを考えると、アクティビストがツルハをターゲットにしたのも「なるほど」と思える。2023年5月時点で、オアシスの持ち株割合は12.84%に達する。本来ならばツルハ経営陣は安閑としていられないはずだ。にもかかわらず、同グループはオアシスの株主提案に対してゼロ回答、全面対決の姿勢だ。
気になるイオングループの動静
強気の構えを崩さないのは、「イオングループの存在があるからだ」ともささやかれる。イオン(千葉県)のツルハホールディングスの持ち株割合は13.59 %(2023年5月期第2四半期の四半期報告書より)でオアシスを上回る。イオンがツルハ側につく限り、オアシスの株主提案が通る見込みは限りなく低い。
それに、業績もガバナンス面も“合格点”をあげているツルハ経営陣を見捨てることは大義名分が成り立たない。イオンが株主提案に賛成票を投じるとは考えづらい。
では百戦錬磨のアクティビストは、敗けるとわかって闘いを挑んだのか。
ご存じの通り、ドラッグストア業界の首位を走るウエルシアホールディングス(東京都:以下、ウエルシア)は、イオンの連結子会社であり、イオンによる支配関係はツルハよりも強い。イオンがドラッグストア再編に動く可能性はあるのか。
イオンはかねてより北海道エリアへの進出強化に強い関心を示してきた。四半世紀前、旧ジャスコは北海道では無名の存在だったが90年代に札幌フードセンター(後のマックスバリュ北海道、現イオン北海道)と合弁で食品スーパー企業の北海道ジャスコを設立。現地に足がかりをつけた。また同時期に旧ホーマック(現DCM、当時の社名は石黒ホーマ)と資本・業務提携を結ぶなどしている(現在もDCMホールディングスの株4.1%を保有)。
それでも2000年ごろまでは北海道ではほぼ無名状態だった「イオン」「ジャスコ」。2000年10月に道内初のイオンモール「イオンモール釧路」を開業を皮切りに、「巨艦店攻勢」をかけ、大型ショッピングモールを次々オープンさせた。さらには「反イオン」筆頭のポスフール(旧マイカル北海道)をも呑み込み、イオン北海道の礎を築く。現在では、北海道においてゆるぎない地位を築いている。
一方、ドラッグストア業態に目をむけると、道内シェアはツルハが5割近いシェアを握るとされ、以下、サツドラホールディングス(北海道)、サンドラッグ(東京都)と続き、全国区のウエルシアは大きく水をあけられている。イオンとしても稼ぎ頭の1つであるドラッグストア事業をさらに成長、発展させたいとは考えているだろう。
となると、オアシスの今回の株主提案が、果たして大株主たちの賛同を得られる見込みもないまま闘いを挑んだのかどうかという点が焦点となろう。その意味で、8月に予定される株主総会は“最終決戦”ではなく、長い闘いの序章になることさえ考えられる。ツルハは、株主総会を乗り切った後も、資本政策見直しや競合との業務・資本提携といった対策が迫られるところだ。