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売上高はコロナ禍以前の水準に! ドトールコーヒーがV字回復を果たした秘策とは?

新型コロナウイルス感染症の大打撃から、徐々に息を吹き返しつつある飲食業界。その中でいち早く売上高をコロナ禍以前の水準まで回復させたのが、コーヒーチェーン最大手のドトールコーヒーだ。

「エクセルシオールカフェ」「カフェコロラド」なども展開する同社だが、中核を担うのはやはり全店舗の8割強を占める「ドトールコーヒーショップ(以下「ドトール」)」だ。そのドトールが早期にV字回復を果たした要因とは。ドトール・日レスホールディングス (東京都/星野正則社長)広報担当者に聞いた。

V字回復の要因は「メニューの高付加価値化」

贅沢ミラノサンド

 20204月から6月にかけての1回目の緊急事態宣言では、客やスタッフの安心・安全を確保するため、いち早く休業を断行したドトール。その後も数度にわたる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響で客足は減少し、コロナ禍に入る以前(202月期)には798億円あった売上高は、翌212月期には586億円まで落ち込んだ。

 しかし、直近の20232月期決算においては、売上高は約760億円を達成。コロナ禍以前とほぼ同水準までV字回復を果たした。

 「お客さまが戻ってくるのには時間がかかるのは仕方ないこと。客足が回復するまで、私たちが努力でできるところに注力した」

 その「努力できること」の一つが、商品の「高付加価値化」だ。例えば、ドトールの看板フードメニュー「ミラノサンド」では、直火焼きのローストビーフに特製のバルサミコ酢ソースを合わせた「贅沢ミラノサンド」を開発するなど、季節ごとのメニューを充実させるとともに、カマンベールチーズを追加してグレードアップしたバージョンも用意した。また、ドリンクメニューにも若年層に根強い人気のあるタピオカドリンクを導入。通常のミルクティーに黒糖を入れたバージョンや、ホイップやソースなどをトッピングしてアップセル(客単価の向上)を促した。

タピオカきなこホイップ

 こういったフードメニュー・ドリンクメニュー双方で付加価値を高めることで、客単価が上昇。「来店客数の戻りはコロナ禍以前の9割に満たない」ながらも、売上高ベースではほぼ同水準にまで回復した最大の要因はここにある。

 このメニューの高付加価値化の背景には、同じホールディングス傘下で「洋麺屋 五右衛門」「星乃珈琲店」などの外食チェーンを運営する日本レストランシステムとのシナジー効果もあったようだ。「フードメニューに関しては、日レスのノウハウを少なからず取り入れて強化を図った」

FC店舗を一時的に直営化し、加盟企業の苦境を支える

ドトールコーヒーショップ赤坂一丁目店内観

 もう一つ、コロナ禍の中でドトールが取り組んできたのは、店舗の改装をはじめとする積極的な設備投資だ。

 「こういう時期だからこそ、お客さまを迎え入れる体制を整えたい」と、店舗の改装・営繕を積極的に断行。さらに、物流センターを自社で構築し内製化を図ったり、節水器を導入するなど、中長期的なコスト削減を見すえた大幅投資を行った。

 さらに、同社が注力したのは、パートナーであるFC加盟企業に対する支援だ。

 ドトール店舗のフランチャイズチェーン(FC)比率は約8割。その加盟企業の中にはホテル業などを本業とする企業も多く、コロナの影響を直に受け、ドトール店舗運営まで手が回らなくなってしまっていた。その加盟企業の苦境を支えるため、ドトールでは一時的にFC店舗運営を買い戻し、直営に切り替える措置を実施。その直営店化した店舗数は35店舗に上る。

 他にも、FC店舗に対してはシステム利用料やリース提供の割引や、ロイヤリティの一部をカットするなどの経済支援を行った。未曽有の苦境の中でできる限りの支援を行ったことで、撤退による店舗数の縮小を最小限に食い止めた。

 ドトールの店舗数の推移に目を向けると、コロナ前の20202月時点では1100店で、うちFC912店舗。直近の232月では1068店、同830店。FC店舗の減少幅がやや大きいように見えるのは、直営店への切り替えが含まれているためだ。

 「FC比率の高い当社では、FC各店舗が堅実な経営をして利益を出すことが、そのまま会社の利益に直結する。FC加盟企業とは長期的にウィンウィンの関係を構築することを大事にしている」と、直営化した店舗は収益改善を図ったうえで、改めてフランチャイズ化していく予定だという。

リーディングカンパニーならではの先を見すえた経営姿勢

物販にも力を入れる

 コロナ禍の苦境の中での思い切った設備投資と高付加価値化への取り組み、さらにFCへの支援によって売上をコロナ前に回復させたドトール。しかし「まだ回復の途上。決して好調とは思っていない」と気を引き締める。

 確かに利益ベースで見ると、20232月期の同社の営業利益は10.9億円(営業利益率1.4%)。202月期の48.5億円(同6.1%)に対してまだ開きがある。客数アップに伴うさらなる売上高の増加やコスト削減などの投資効果が表れるのはこれからだろう。

 「コロナ禍での一連の施策や投資は、回復に向けた基礎固め。ようやくお客さまを迎え入れる一連の体制が整った」と語るように、ドトールが目下力を入れているのは客数を回復させるための施策だ。キャッシュレスの推進、レジのセミセルフ化、モバイルオーダーなど、顧客の利便性向上のための投資を強化している。セミセルフレジの導入は、スタッフの負担軽減やオペレーションの改善を狙った効率化の一環でもある。

 1980年、東京・原宿に第1号店を開業して以来、日本のコーヒーチェーンの元祖としてイノベーションを起こしてきたドトール。コロナ禍で講じてきたメニュー開発や設備投資、FC加盟企業への支援といった一連の施策には、目先の売上や利益にとらわれず、中長期の先を見すえたリーディングカンパニーならではの経営姿勢がうかがい知れる。