渋谷の本店閉店で東急百貨店が向かう “百貨店”にこだわらない「新しいリテール」の姿とは
本店の顧客へのサービスも継承
一方で、それでもやはり気になるのは、長年親しまれてきた東急百貨店本店だ。「フード」と「ビューティー・コスメ」以外のカテゴリーは店舗ごとなくなってしまうのか? その疑問に対して経営管理室 経営企画部長の柏木徹氏は次のように語る。
「閉店に際して、私たちは『THANKS&LINK』というキャッチフレーズを掲げた。新たな業態やサービスでお客さまとの接点をつくり、長年築いてきたお客さまとのつながりを継承していく」
都内有数の高級住宅街・松濤に近接し、ハイエンドな顧客層に支えられてきた本店。長い歴史の中で「祖父母の代から3代にわたって親しんできた」という顧客も多い。その顧客のニーズに応えていくため、渋谷ヒカリエ ShinQs 5階に「東急百貨店 お得意様サロン」を新設。外商機能を継続していくとともに、ShinQs内に時計や宝飾などの売場、カルティエやパテック フィリップといったブランドショップも順次オープンしている。
ラグジュアリーブランドを中心としたファッションは、期間限定で商談会を開催するほか、渋谷周辺のラグジュアリーブランド各店舗へ顧客を適宜送客するなど、近隣のブランド店舗との協業によってニーズに応えていく。
また、東急百貨店で定評のあった売場の一つが、ソムリエが常駐し屈指の品ぞろえを誇るワイン売場だ。そのワイン売場をそのままスピンアウトさせる形で、2023年3月10日、旧東急百貨店本店の近隣に、ワイン専門店「THE WINE by TOKYU DEPARTMENT STORE」をオープンした。
一方で、本店跡地はどうなるのか? これについてはリテール、スモールラグジュアリーホテル、賃貸レジデンスが融合した複合施設の建設が計画されている。この新たな渋谷のランドマークは、2027年度の竣工を目指している。
「東急百貨店本店の跡地は、渋谷特有の賑わいと、松濤という静謐な住宅街、そして独自のカルチャーが息づく奥渋エリアの結節点に位置し、多種多様な人が交差するエリアでもある。その立地を活かしたランドマークが誕生することで、今まで以上に多くのお客さまとの接点が生まれることを期待している」(柏木氏)