[東京 17日 ロイター] – 薬の町として知られる大阪・道修町に本社を構える創業141年の塩野義製薬。足元では好調な業績が続くが、薬の特許切れに伴って収益が激減する「特許の崖」が迫る中、切れ目のない成長に道筋を付けられるかが課題だ。同社の手代木功社長は、製薬業界の未来図を模索しながら、後継者を社外から登用することも視野に人選を進める。
9年後の危機
「埋めるべき穴が大き過ぎる」──。ロイターのインタビューに応じた手代木氏は、今後訪れる危機への警戒感を隠さなかった。
2028年、塩野義は好調な業績を支える抗HIV薬「テビケイ」の特許切れを迎える。この薬は、他の3つの抗HIV薬にも配合されており、特許が切れればその影響は全てに及ぶ。
昨年度はこの4つの薬だけで、総売上高の約35%に当たる1200億円超を稼いだ。
一般的に新薬の開発には10年以上かかるため、塩野義にとっては今が正念場だ。「薬だけで埋められる穴でもないだろう」と話す手代木氏は、収益源の多様化に向け、薬以外の事業も拡大する構想を抱く。
同社は今年3月、米ベンチャー企業が開発したスマートフォン用のアプリに関し、日本と台湾で販売する権利を取得。このアプリは発達障害の一種である注意欠陥多動性障害(ADHD)などの治療用で、医療機器としての承認を目指している。
「技術進歩が速いため、今見えていないものが大当たりする可能性もある」と手代木氏。デジタル事業に加え、核酸やペプチドといった中分子医薬と呼ばれる分野にも経営資源を割き、「特許の崖」の到来に備える。
脱・依存体質
塩野義は売上高こそ国内9位の規模だが、売上高に占める営業利益の比率は業界トップを誇る。
同社はこれまで、自社開発品を海外で販売する際、権利を他社に譲り、売り上げに応じて対価(ロイヤルティー)を受け取る契約を結ぶことが多かった。
前述の抗HIV薬に加え、高脂血症薬「クレストール」やインフルエンザ治療用の「ゾフルーザ」はその代表例で、昨年度はロイヤルティー収入が売上高の約5割に上った。
海外での販売を他社に任せることでコストを抑制し、営業利益率を押し上げてきた側面がある。
だが、抗HIV薬の特許切れはロイヤルティーの減少を招く。同社は、今年度に米国で承認が見込まれる抗生物質「セフィデロコル」を自社販売し、他社に依存しない体制作りを急ぐ。
この薬は専門性が高く、販売先は大規模な病院などに限られるため、多くの営業部隊が必要とされるわけではない。身の丈にあった戦略だが、塩野義が米国で自社販売するのは極めて珍しく、収益構造の変化を見据えた象徴的な取り組みといえる。
手代木氏は「自分たちで展開するところも、増やす必要がある。全て他人任せというわけにはいかない」と語る。
崖の向こう側
多方面にわたって成長の種をまく塩野義だが、不透明感は付きまとう。
同社は以前も「特許の崖」に直面したが、手代木氏の機転で乗り切った成功体験がある。販売権を譲渡した先の企業からのロイヤルティーを前もって減額するかわりに、受け取り期間を延長させ、切り立った崖をなだらかな丘に変えた。
当時を知るシティグループ証券・アナリストの山口秀丸氏は「後にも先にも例を見ない妙手だった」とする一方、「今度の崖は厳しいだろう。ここ数年がヤマ場だ」と見る。
塩野義では、「崖」のさらに先に当たる2030年や40年の将来像についての議論を始めたという。手代木氏は「今までのように、製薬会社が薬だけを提供すればいいという世の中ではなくなるだろう」と見通す。
社長就任から10年を超えた手代木氏の頭の片隅には、後継者を社外から登用する選択肢も浮上する。
「他産業から見た製薬業界の理解できない部分を、どう埋めていくのかが次に必要なポイントだ。外部の人、もう少しヘテロ(異種)な人間を入れていかなければ、なかなか企業はダイナミックに成長できない」と話した。