米ウォルマート(Walmart)が傘下の西友(東京都/リオネル・デスクリーCEO)を再上場させることが明らかになった。西友が6月26日に3カ年の中期経営計画を発表し、その中に再上場を盛り込んだのである。だが、今後ウォルマートが長期間にわたり西友の経営に関与していくとみるのは少数派だろう。西友再上場の裏には、ウォルマートのどんな戦略が潜んでいるのかーー。
再上場はウォルマートによる出口戦略か?
「正直、少し驚いた」
ある西友OBは再上場の一報に接し、こう話す。「昨年の一部報道のとおり、ウォルマートによる西友売却はすでに水面下で動いていると聞いていた」(同OB)からだ。
しかし巷間で言われているように、西友の売却金額は3000~5000億円(推定)と高く、複数の交渉先と折り合いが付かなかった。そこでウォルマートは、「出口(イグジット)戦略として再上場」を選択したとみられている。
ウォルマートは国際事業の再構築を進めている。英国で食品スーパーを展開する、傘下のアズダ(Asda)は同じ英スーパー大手のセインズベリー(Sainsbury’s)と統合を計画中だ。
また、業績不振のブラジル子会社は18年、米投資ファンドに売却した。2002年に資本業務提携して以降、業績が改善しない西友が見直しの対象となるのは当然だろう。
あるアナリストはウォルマートが国際事業の見直しを進め、西友の再上場を打ち出したのは「対アマゾン戦略の“軍資金”を調達する意味合いが大きいのではないか」と指摘する。ウォルマートは近年、デジタル分野への投資を進めており、西友を再上場させ、そこに資金を回す可能性が高いというわけだ。
今年に入ってから米国株、日本株ともに不安定な状況が続いており、今後の市場の見通しも不透明だ。「早い段階で上場して、資金を調達したいという思惑があるのではないか」(同アナリスト)というのである。
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上場前に資本提携も?!
ウォルマート日本撤退の布石?
他方、ウォルマートは西友再上場にあたって「日本からの撤退の布石を打つ」とみるのは、ある経営コンサルタントだ。
そのため再上場では、「上場前にどこかの企業と資本提携し、少数株主として株式の一部を持ってもらうことが考えられる」というのだ。この経営コンサルタントによれば、「それは首都圏にある高密度の西友店舗網を『ラストワンマイル』を埋めるための拠点として活用できる、アマゾンジャパンが最適ではないか」という。
だが、米国本土でアマゾンと熾烈な競争を繰り広げるウォルマートにとって、それは敵に塩を送るようなものであり、実現可能性は低いとみられる。
同コンサルタントは「同じ文脈で西友と提携している楽天ならあり得ないことではないし、実店舗に興味を示すイオンにも可能性はある」とも付け加える。
また、パートナーとして投資ファンドが名乗りを挙げるケースも考えられる。だがハイリターン案件でなければ首を突っ込むわけもないので、その際は株式譲渡価格が問題となるし、出資比率も影響力を行使できるレベルを要求するだろう。その後もドラスティックなリストラクチャリングが行われることは必至だ。
とにかく、それだけの投資が可能であり、かつ投資効果を見込める企業は限られているのは確かだ。
デクスリー西友CEOはどんな答えを出すのか
一方で上場後、ウォルマートは他企業に株式を売却して少額出資まで減らすという選択肢もとることができる。しかし、西友にどれだけの株価がつくかは不透明だ。
ビジネスとして売上高が7000億円程度あるにしても、西友の利益率は現状高いわけではないからだ。将来的に、ラストワンマイルの拠点として活用が進むならば、その「将来性」が買われる可能性もあるが、どうだろうか。
そのあたりは、今年3月、ウォルマート・ジャパン・ホールディングス、西友の社長兼CEOに就任したリオネル・デスクリー氏がカギを握る。
西友はこれまでウォルマート流の移植に時間を割かれ、ローカライズが進んでこなかったことは本オンラインの連載でも指摘している。その空白を埋めるために、デスクリー氏は現在精力的に自社店舗を回っているという。西友は中期経営計画で、カスタマー・バリュー・プロポジション(CVP)の向上、オムニチャネル戦略の加速などの具体的な成長戦略を掲げている。
この計画を見る限り、ポジティブで自助努力による積極的な投資を行い業績向上の布石を打ち、その後のさらなる強い成長のための投資資金を上場で賄うというストーリーも想像できる。だが、それは上場の際、募集するのが公募株なのか売出株なのか、あるいはその比率が大きな意味を持つし、それによっては西友に成長資金が回ってこないこともある(ソフトバンクの子会社上場の例を参照)。すべてはウォルマートの意志次第なのだ。
中計3カ年の中で、ウォルマートは西友に対して、最終的にどのような答えを出すのか。注目される。