国内小売最大手のイオン(千葉県/岡田元也社長)は現在、組織や業態、商品開発の改革に取り組んでいる。地方に権限を委譲する地方分権の推進やPB開発の再強化、またGMS売場の専門店子会社化などを実施し、GMSの収益力向上を図っているところだ。ただ、巨大化したゆえの課題も少なくない。
幹部から漏れ聞こえる本音
イオンの2019年2月期決算は売上高が前期比1.5%増の8兆5182億円、営業利益が同0.9%増の2122億円。営業の6割をデベロッパー事業を中心とする不動産事業と金融事業で叩きだしている。ショッピングモール戦略が本格化して以降、この収益構造が続いておりモール戦略は見事に当たったといえる。
しかし、モールの核店舗となるGMSを運営するイオンリテール(千葉県/井出武美社長)の売上高は同0.5%減の2兆116億円、営業利益は同横ばいの118億円で、売上高営業利益率は約0.6%と低調だ。ちなみに一般的な食品スーパー企業の営業利益率は3―4%ほどある。
あるイオンの幹部は「GMSに(収益拡大の)原動力になってもらおうとは思っていない」と本音を吐露する。業界では「イオンのGMSは、モール内のテナントに支えられている」(ある小売業の幹部)とも揶揄されている。イオン拡大の原動力になってきたGMS事業は現在、「何が原因で低収益体質なのか」という疑問を常に投げかけられている。
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分権化から4年、その成果は!?
分権化も、成果は未だ見えず
「岡田元也社長の高邁な思想が末端まで行き渡らない」――。
グループ企業の幹部の言葉だ。もちろん、イオンは次々と新規事業を生み出す柔軟性があり、M&A(合併・買収)でグループの規模を拡大してきた。
だがその一方で、イオンリテールは2兆円超の売上高がありながら、その規模の利益を引き出し切れていないとも見ることができる。
そうしたこともあり、イオンリテールは2015年から分権化を本格的にスタートした。「(イオンの本社がある千葉・幕張からは)地方にある店舗の商圏は把握できない」(イオンの元幹部)というのが理由だ。
具体的には、商品の仕入れにはじまり、販売促進策、人材の採用などの人事まで権限を分割、全国にあるカンパニー各社に大幅に移譲した。取りこぼしがないように、商圏のニーズをより細かく吸い上げるというねらいだ。この分権化から約4年が経ったが、収益面を見る限り、抜本的なGMS改革のメドが立つまでは、もう少し時間が必要そうだ。
イオンの針路に注目が集まる
収益貢献度が高いプライベートブランド(PB)はどうだろうか。「トップバリュ」の売上高は現在約7500億円であるのに対し、セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長)のPB「セブンプレミアム」の売上高は1兆5000億円(20年2月期見通し)。イオンは他社に先駆けてPB開発に取り組んできた企業であるにもかかわらず、後発であるセブン&アイの約半分の売上規模となっている。
PB開発を担う事業会社、イオントップバリュ社長でイオン執行役の柴田英二氏は、「トップバリュは商品の評価のし直しができていなかった」話す。商品開発時に「消費者モニターの半分以上がナショナルブランド商品よりもよいと評価しないと商品化できない」という仕組みを取り入れ、開発スタンスを変えたのも柴田氏が社長に就任してからだ。トップバリュの巻き返しは見られるだろうか。
そのほかイオンリテールでは、GMS事業の各売場を専門店として分社化するという施策にも乗り出したり、従来のGMSとは一線を画する「イオンスタイル」を展開を進めたりなど、あの手この手でGMS改革を進めている。
イオンのGMS改革は巨大さゆえの難しさを抱えている。これまで打ってきた施策を結実できるか。イオンの針路に注目が集まっている。(次回に続く)