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ウォルマートのビジネスモデルは全世界で通用する=西友兼ウォルマートジャパンCEO

世界最大の小売業ウォルマート傘下の西友(東京都)が、じわりと日本市場での存在感を増している。2012年は主要食品1300品目について平均8%値下げ。さらにはグローバル調達網を活用した直輸入品を拡大し、いちだんと低価格攻勢を強めている。ウォルマートは日本市場をどのように攻めるのか。スティーブ・デイカスCEOに聞いた。

日本市場におけるEDLPの浸透に手ごたえ

──2012年は厳しい経済環境の中で、西友は既存店売上高が対前期比0.5%増となりました。第4四半期は客単価が同0.3%増となったものの、客数が同1.8%減少しています。

Steve Dacus(スティーブ・デイカス) ●1960年生まれ。サンディエゴ州立大学卒業。2007年8月、ウォルマート・ストアーズ・インクへ入社、国際部門の商品本部、マーケティング本部などを統括。09年2月ウォルマートのサムズ・クラブ(会員制ホールセールクラブ)へ異動、テクノロジー&エンターテイメント部門のGMM(ゼネラル・マーチャンダイズ・マネジャー)に就任。10年4月、西友執行役員EVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)・最高執行責任者(COO)兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングス執行役員EVP・COOに就任。11年6月20日から現職。米国公認会計士。

デイカス 昨年は当社のみならず、どの企業にとっても課題の多い年でした。不況が続く中で各業界が厳しい状況に直面しており、小売業も例外ではありません。しかし、そのような環境の中でも当社は4年連続で増収増益を実現しましたので、それに関しては自信を持っています。

 厳しい環境下で一貫して増収増益を記録できた事実が、EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)そして当社のビジネスモデルが非常に強固なものだという裏づけになっています。競合他社の実績を見れば、明らかにEDLPとEDLC(エブリデイ・ロー・コスト)が売上高によい影響を与えていることがわかるでしょう。

 業績以外にも、昨年は当社として嬉しい展開がありました。1つは新しいプライベートブランド(PB)「みなさまのお墨付き」「きほんのき」の発売です。PB投入の時期としては少し遅かったかも知れませんが、時間をかけてもよい商品を出したかったので、このタイミングとなりました。その結果、他社のPBとは違う独自性を打ち出せたと思います。実際、売上も順調に伸びています。以前あった同様の商品に比べて販売数量ベースでは同20%増、売上高ベースでも同15%伸びています。

 また、昨年は当社のネットスーパーを一新しました。リニューアル以後、毎月、対前年比50%程度の売上増を記録しており、予想以上の手ごたえを感じています。出店については、昨年は新店を7店舗開店しました。価格政策では値下げも実施しており、12年は主要食品1300品目について、平均8%値下げしました。

──主要1300品目を対前期比で平均8%値下げしていて、客数が同1.8%減っているのに、客単価が0.3%増えています。ということは、一人当たりの買上点数が平均10%程度伸びているということでしょうか?

デイカス 客単価が上がっているのは、当社をひいきにしてくださるお客さまが、今まで以上に当社でお金を使っているからです。つまり、そのお客さまは、EDLPを理解してファンになってくれています。これは当社のビジネスモデルが機能していることを意味するので、大変満足しています。

 客単価もしくは買上点数が増えれば、生産性が向上し、コストが下がって単位売場面積当たりの効率が改善します。それこそが当社のビジネスモデルが成功するためのカギなので、これはとても重要な指標です。

 当社が好調に推移していることは、ウォルマートのビジネスモデルが世界中どこでも機能する証拠だと考えています。12年のウォルマートの全世界の売上高は4660億ドル(約36兆8000億円)で、売上増加分だけでも220億ドル(約1兆7600億円)になります。これは多くの日本の小売業の年商を上回る、本当に驚くべき数字です。このような売上が出せるのは、ウォルマートのビジネスモデルが成功しているからです。

 現在のような変化の早い時代において、同じモデルを継続するのは大変なことです。目先の動向に合わせて方向性を変えるのは簡単ですが、ここは自制して、ウォルマートのビジネスモデルをやり続けなければいけません。

──客単価は伸びましたが、一方で第4四半期は客数が減っています。最近は都市部に小型スーパーマーケット(SM)が増え、生鮮食品を取り扱うコンビニエンスストア(CVS)も増えています。こうした小型店の影響もありますか?

デイカス お客さまがどこに流れているのかを正確には把握できません。しかし、確かに昨年は全国的に小型フォーマットの店舗が大幅に増えました。その影響がまったくないとは言えません。

 ただ、当社には競合店をコントロールすることはできませんから、当社にできることを考え、努力を続けるだけです。お客さまが欲しい物を望む価格で提供する。その結果、客数が伸びればそれが正しいということですし、客数が落ちればもっと努力しなければいけません。当社は今の取り組みを継続することが大事だと考え、EDLPとEDLCをさらに強化し、PB商品の開発に注力します。とくにPB商品はさらに伸びる可能性を秘めていると考えています。

eコマース強化に向けウェブサイトを刷新

──競合となるのは実店舗を持つ小売業だけではありません。最近オンライン小売業ではアマゾン(Amazon.com)が台頭してきています。西友はeコマースを強化していくということですが、具体的にはどのような取り組みを考えていますか。

デイカス 小売市場ではeコマースも存在感を増しています。消費者の購買行動の変化を見れば、eコマースが急速に浸透していることは明らかです。ですから、新規出店によって実店舗を増やすほうがいいのか、それとも既存店の効率性を改善してeコマースを充実させるほうがいいのか、考える必要があります。

 まず、小売業がオンライン市場に参入することが重要だと考えています。アマゾンはすでに小売業にとっての競合となっています。当社にとってもオンライン販売の拡大は急務です。

 ウォルマート全体としてもオンライン販売を主要戦略と考えています。次世代はオンライン中心で、既存の実店舗だけでは生き残れないと考えているからです。ウォルマートはあらゆる進出市場で勝者になるために、この変化に対応しようと努力しています。

 当社はネットスーパーの売上が対前年比50%増で推移しており、これは順調と見てよいでしょう。今年はディー・エヌ・エー(東京都/守安功社長)のサポートのもと、新しいeコマースのサイトを立ち上げ、全国どこからでも注文できるように準備しています。

──アマゾンは物流が簡素化されており、日本の場合は全国12カ所の物流センターから直接個人宅に配送しようとしています。一方、従来型の小売業の場合は、メーカーから消費者に商品が届くまでに最低でも数日はかかります。物流面では何か対抗策はあるのでしょうか。

デイカス アメリカやイギリスなどの他国でもやっていますが、補充センターを持つことがカギになると思います。当社でも補充センターを立ち上げて倉庫から直接、消費者に配送できるようにします。

 ただし、これはどこの会社にも言えることですが、生鮮食品をどう扱うかが課題です。当社は実店舗がありますので短期的には既存のeコマース企業に対して優位性があります。しかし、長期的に勝つためには、全国規模で見て、生鮮食品をいかに効率的に補充センターから配送できるかという問題を解決する必要があります。

 また、既存のeコマース企業が生鮮には参入しないと考えるのは大間違いです。当社はそれを想定して準備をしています。

 消費者の購買行動を変えるのは難しいことですが、ひとたびそれが変わってしまうと元には戻せません。「消費者はオンラインでは生鮮を買わない」と考えている向きもありますが、それは間違っています。当社におけるお客さまの購買行動を見ても、ここ数年で生鮮をオンラインで購入する人が増えています。そして、一度変化が起こってしまうと、それを戻すことはできません。

 オンラインで食品を購入する動きが広がる中で、当社のPB商品は既存のeコマース企業などの競合対策として効果があると思います。オンラインは店頭よりも価格比較がしやすいので、EDLPの強さがより効くはずです。eコマースが今、急成長している要因の一つには、価格比較のしやすさがあると思っています。

──実店舗とオンライン店舗をつなぎ、お客がどこからでも買物できるようにする「オムニチャネル」というトレンドがありますが、これに対して西友はどのようなアプローチをしていきますか。

デイカス 商品の買い方は、お客さまが選びます。オンラインでも実店舗でも、最安値で最高の買物体験を提供することをめざしています。この2つのチャネルは補完的な関係性です。日ごろから当社の実店舗を利用しているお客さまが、オンライン店舗も利用している。また、実店舗があるからこそ生鮮食品の配送ができています。両方のチャネルが当社にとって重要ですので、いずれも投資を続けます。

直輸入を強化 牛肉=西友のイメージをつくる

──新たなPBの展開のほかに、12年はグローバルの調達網を生かした直輸入商品の取り組みも強化しました。

デイカス 直輸入商品については、一つはウォルマート子会社であるイギリスのアズダ(ASDA)の子会社、アイピーエル(IPL)による一括輸入を始めました。これまで各取引先と直接やり取りしていたものを、IPLを一括窓口として商品を直輸入するというもので、より一層のコスト削減とスピードアップを図ることができます。

 アメリカ産牛肉も新展開がありました。当社はウォルマートの子会社ですので、ウォルマート価格でアメリカから牛肉を仕入れています。ちょうど今年に入って牛肉の輸入規制が生後20カ月から30カ月に緩和されたこともあって、牛肉を圧倒的な低価格で提供できるようになりました。アメリカ産牛肉については、売上が対前年比30%伸びています。

 また、今月からは牛肉プログラムを立ち上げています。牛肉の価格を大幅に引き下げ、TVCMも打っています。その効果もあり売上が順調に伸びています。牛肉は来店者数を増やす効果のあるカテゴリーですので期待しています。

──それでは今後、さらに牛肉に注力するのでしょうか?

デイカス はい。当社としてはよい商品を圧倒的な低価格で日本の消費者に提供できる絶好の機会です。ウォルマートの購買力を活用しつつ、これからどんどん取扱量を増やしていきたいです。

 しかも、値下げ対象は米国産だけではありません。もちろん、米国産は当社の強みではありますが、日本のお客さまは国産牛に対する需要が大きい。日本のお客さまのニーズをすべて拾って、すべての商品の価格を下げたいと考えています。国産、輸入にかかわらず、すべての牛肉を値下げして「牛肉=西友」のイメージづくりをめざします。

──IPLを通して一括輸入をすると、仕入れ価格はどれくらい下がるのでしょうか?

デイカス アイテムによって違いますが、大幅なコスト削減になっています。値札を見れば他社よりもだいぶ低いですし、かといって当社の利幅を削っているわけではありません。主な取扱商品はアズダのPB商品やビール、菓子などです。

──ウォルマートからの直輸入は生鮮食品が主流ですか?

デイカス 確かに生鮮が主流で今後も増やしていきます。しかし、グロサリーなど、まだまだ取り扱いを増やす余地のあるカテゴリーもあります。当社の目標は今後5年で直輸入商品の取扱高を3倍に増やすことです。そのためには全カテゴリーで直輸入商品の割合を拡大する必要があります。

──直輸入商品は膨大な選択肢があると思いますが、誰がどのように輸入する商品を選んでいるのでしょうか。

デイカス 日本人の担当者がアメリカとイギリスに常駐していて、日本のバイヤーと協力してお客さま目線で商品を選んでいます。日本での売れ筋を意識して商品を選ぶことはもとより、日本では売っていない独自の商品も積極的に展開しています。

 たとえば当社で扱っている「ベティクロッカー(Betty Crocker)」のブラウニーは、典型的なアメリカの菓子ですが、国内の競合他社にはなかなか売っていないのではないでしょうか。日本の主婦にはブラウニーにまだなじみがないかも知れませんが、新しいニーズを掘り起こせる可能性があると考えています。

 つまり、今あるニーズと、今後生まれるかもしれないニーズの両方を考慮して商品を選んでいます。

既存店は重要な資産 大型店の改装に注力

──成長戦略の一環として新規出店を加速する中で、12年は7店舗を新規出店しました。そのうち11月にオープンした「西友府中四谷店」(東京都)は新たなモデル店という位置づけですが、手ごたえはありますか。

最新モデルに改装した「西友府中四谷店」(東京都府中市)。下に強い食品売場、上に強いアンカーテナント、そして間に多様な店舗が入る、西友の新しいコンセプトを導入したモデル店だ

デイカス 非常に満足しています。週末には予想以上に集客しています。店内にはいくつもの新しい工夫を凝らしており、内装を従来よりも暖かい雰囲気に変えて、什器も刷新したことで、より買物しやすくなりました。さらにLED(発行ダイオード)の電球を使用したり、照明やスポットライトの配置、個数、床の光反射にまで気を配ったりと、省エネにも配慮しています。

 西友は、常にお客さまに来ていただけるような店舗づくりをめざしていますが、まだまだ改善の余地はあります。当社は資本の使い方に関して、規律が非常に厳しい会社です。新店を建設するに当たって、よりよい買物経験を提供できる方法と同時に、常にEDLCの観点からいかに投資を減らせるかを考えています。

──最後に今期の出店計画について教えてください。

デイカス 13年の新規出店は新長田店(兵庫県)、江戸川中央店(東京都)と、東京都板橋区内の1店舗を合わせて3店舗。それとリロケーションの(仮称)東久留米店(東京都)、建て替えの台原店(宮城県)の合計5店舗の出店を考えています。ほかにも出店用地を探してはいますが、きちんと収益が上がる物件を吟味しています。

 一方、ROI(投資収益率)を考慮のうえ、既存店の改装にも取り組んでいます。今年は40店舗の改装を実施することに決めました。改装を計画している店舗の中には、大型店も多く含まれますが、これらは昨年改装した「リヴィン光が丘店」(東京都)のモデルを踏襲します。最上階にアンカーテナントを入れていて、直営とテナントが分かれているため、お客さまにとってわかりやすいのが特徴です。実際この店は改装後、堅調に売上を伸ばしています。

 既存店については今後も改装を続けていく方針で、大型店に関してはまだ改装によって売上を拡大する余地があります。当社では6~7年に1度改装するサイクルになっています。改装のタイミングで、「リヴィン光が丘店」のような、下に強い西友の食品売場、上に強いアンカーテナント、そして間に多様な店舗が入る──といった新しいコンセプトを導入していきます。

 既存店は重要な資産ですから、店舗を拡大している間もきちんとメンテナンスが必要です。