4つの事業会社を傘下に抱えるドラッグストア企業ウエルシアホールディングス(東京都:以下、ウエルシアHD)の業績が好調だ。2012年8月期は、売上高2934億円(対前期比8.3%増)、営業利益115億円(同5.7%増)、経常利益123億円(同7.9%増)、当期純利益59億円(同29.8%増)と立派な数字を残している。しかし、同社はこの現状に甘えておらず、すでに未来を予見した策を着々と打ち始めている。
※文中の数字は2012年8月期のもの
3つの差別化ポイント
──日本チェーンドラッグストア協会(東京都/関口信行会長)の発表によれば2011年度の国内ドラッグストアの市場規模は5兆8000億円であり、対前年度比3.1%増と11年連続で成長を遂げています。少子高齢化・人口減少と明るい話題がそれほど多くない流通業界の中で、ドラッグストア業界は異彩を放っています。
高田 そうですね。小売業界の中では数少ない潜在成長性の高い業態でしょう。なぜなら「団塊の世代」を筆頭に、これから健康問題と向き合わなければいけない方々の人口は増加の一途を辿ると予想できるからです。
戦後の日本の消費は昭和22年~24年生まれの「団塊の世代」が牽引してきたようなところがあります。彼らを中心に消費は質量ともに変化してきました。現在、その「団塊の世代」が65歳を迎え、社会から本格的にリタイヤをし始めています。
実は、私も「団塊の世代」の一員ですが、この年齢になってきますと、余生や寿命に対して非常に敏感になってきます。「何とか生きながらえたい」という気持ちも起こってきます。そして、生命にかかわることにはおカネに糸目を付けないようになります。
ということは、既存のマーケットは下降トレンドにあっても、この市場だけは爆発的に大きくなる、と予測できます。
その中で、自分と一般社会やウエルシアHDの事業会社に勤務する同世代の方々の価値基準をすり合わせながら経営の方向性を定めているところです。
──「シニア」という曖昧な概念ではなく、「団塊の世代」というターゲットに照準を絞っています。だから、差別化のポイントもはっきりしています。
高田 当社には現在、ウエルシア関東(埼玉県/池野隆光社長)、高田薬局(静岡県/高田都子社長)、寺島薬局(茨城県/水野秀晴社長)、ウエルシア関西(大阪府/槌屋茂康社長)、と4つの事業会社があり、今後もM&A(合併・買収)で増やしていく計画です。
メンバーになるに当たっての約束事は3つあり、これが差別化のポイントと言えるでしょう。
すなわち、1つは調剤薬局併設(併設率63.1%)、2つは深夜12時まで営業(深夜営業率74.3%)、3つはカウンセリングセールス(カウンセリング化粧品取扱率92.1%)です。
カウンセリングセールスに注力
──ウエルシアHDの大きな特徴は売上総利益率(≒粗利益率)が29.5%と高いことにあります。
高田 そうですね。その理由の1つは売上高構成比の24.2%を占める医薬品の粗利益率が39.9%と高いからです。調剤(粗利益率34.4%)、化粧品(同32.6%)は同業他社との比較ではそれほど変わらないのですが、医薬品はドラッグストア企業の特徴がはっきり表れる部門です。
そのことを踏まえて言えば、当社の特徴はカウンセリングセールをしっかり提供しているということです。もともとカウンセリングセールスは化粧品をベースに考案したビジネスモデルですが、現在は全部門に波及しています。手間はかかりますが、利益率も大きいのです。
私は、これからの時代はセルフサービスではなく、一人ひとりのお客さまと対面する時代だと考えています。お客さまに対して親切に大切に応対することによって信頼を得てお客さまを増やしていきたい。
たとえば、ネットビジネスに関しても同じことが言えます。高齢化によって、店舗に行かない、行けない人たちに対して、1対1で対話ができ、カウンセリングができるようなツールとしてネットを使っていきたい。もちろん、ターゲットは「団塊の世代」です。
ネットビジネスというと、今の主流は、若者に焦点を当てたものになりますが、私たちは高齢社会の中で利用してもらう道具にしたいと考えているのです。
その意味からも、双方向のネットでなければ意味はありません。新しい時代が到来しているのですから、旧来と同じことをしていても仕方がありません。
調剤強化にビジネスチャンス
──そうしたビジネスモデルであるならば、人材の育成は大きな課題になってきます。
高田 現状の教育は、統一してやるべき内容はウエルシアHDで一括して実施しています。一方で、各事業会社の社風から来る人材育成もとても重要だと考えていますので、それ以外の部分については個別に進めています。
ドラッグストアは、ナショナルチェーンで成功できる業態だとは認識していません。お客さまがドラッグストアに望んでいるのは、地域に根付いている安心感だと考えているからです。ですから、各事業会社の個性は非常に尊重しています。
──もう1つ。調剤併設というビジネスモデルの中では、薬剤師の確保は火急の課題です。
高田 そのとおりです。健康や医療の分野で地域のお客さまからの信頼を獲得していくには、調剤薬局を併設して、薬剤師を常駐させる必要があるからです。
私どもは、東京証券取引所第1部上場のウエルシアHDを窓口として、待遇面のよさを訴求しながら新卒の採用活動にあたっており、学生さんからの評判もすこぶるよい。
一方、薬科大学も6年制に制度が変わったことで学生の質がずいぶんと良化しているように思えます。これまでは、薬剤師免許を持っていれば誰でも採用せざるをえなかったような窮状でしたが、今後はこの部分も変わっていくのかなと感じています。
──しかしながら、将来的に調剤は薬価(医療用医薬品の公定価格)改定の問題があり、今後、調剤部門では利益を出せなくなっていくという予想もあります。
高田 そうです。日本の医療費が約37兆円であり、高齢化の進展にともない、さらに増加が見込まれます。しかも、日本の財政は火の車ということであれば、国は医療費補助負担額を軽減させるために薬価をどんどん切り下げるでしょう。
すると、調剤部門の利益は減少し、ビジネスとしては成立しにくくなっていくはずです。その中で、戦線離脱する企業も増えていくでしょう。
ただ、私は、その潮目の変化がチャンスだと考えています。
高齢化や財政赤字増加によって、“利益を生まない処方せん”を持参するお客さまは加速度的に増えるものと予測できます。しかし、違う目線で見れば、そのお客さまたちは、健康ケアの問題意識を旺盛に持っている前向きな方々であるのです。
その方々の受け皿としての役割を当社が果たすことができれば、大きなビジネスチャンスが広がると考えます。だから薬剤師を大量に採用したいと考えています。
──調剤部門が利益を生み出しにくくなる中で、どこに大きなビジネスチャンスを見出しているのですか?
高田 調剤だけでも、多少なりとも利益を見込むことができますので、お客さまとの信頼関係をベースに「かかりつけ薬局」として、そのお客さまの長寿、健康な生活に向けての提案をいろいろとさせていただきたい。併設調剤のメリットはそこにあると考えています。
今のところ当社は、何でも販売している「何でも屋」に見えるかもしれません。
しかしながら、将来的には徐々に「健康屋」に変えていきたいと考えています。これまで日本の流通業界は、業態論を中心に推移してきましたが、もう一度、「業種は何であるのか?」が問われるようになる気がします。「自社が何屋なのか」を明確にして存在意義を明らかにすることが求められる時期に来ているからです。「健康屋」は調剤のみを扱っている薬局とは明らかに異なりますので、大きな差別化要素になります。
ただし、介護事業については、見え切れていない部分がありますので、全身全霊で参加するということはありません。
5年後には中国で上場
──今後の拡大戦略についてはいかに考えていますか?
高田 当社のレギュラー店舗のプロトタイプは、郊外型で駐車場併設の売場面積250~300坪になります。ほとんどがこのタイプと言って過言ではありません。
しかしながら、高齢化の進展にともない都心回帰はどんどん進むでしょうから、30坪クラスの都市型店舗の開発にも着手しています。
今後2つのタイプを合わせて、1年間当たり合計店舗数(764店舗)の10%程度は出店していきたいところです。実際、今期は76店舗の新規出店を計画しています。
展開エリアについては、日本全国が視野に入っています。
今年6月1日に中国現地の合弁会社「聯華毎日鈴商業(上海)有限公司」を通して海外1号店「櫻工房南方ショッピングセンター店」を出店し、海外にも飛び出しています。中国へは現在2店舗を展開していますが、今年中に6店舗の展開になる予定です。5年後には上海市場への上場も考えています。
海外は、今後マレーシアのクアラルンプール辺りに拠点を設けて、ベトナム、インドネシア、タイ、ミャンマー、スリランカ辺りへ進出することも考えられます。
M&Aの話は、いろいろありますが、業界が元気なだけにまだ切羽詰まったところは多くないようで、それほど進んでいません。企業規模としては、16年8月期に売上高5000億円、1500店舗という目標を掲げています。いまのところ自主拡大路線で4300億円までは見えています。
製造小売業にシフト
──他方、ドラッグストア業界全体に目を向けると、これまで多くの企業は郊外に大型店舗を続々と出店してきました。
高田 そうですね。そこに食品を大量に安く揃えて集客して売上を上げる、というモデルが圧倒的な強さを誇ってきましたが、これが変わってくる可能性があります。
実際、ドラッグストアの中には、デモグラフィックなどの変化を先取りして、大型店舗を見直す動きも出てきています。
──ウエルシアHDでも食品を結構扱っており、部門別売上高構成比は23.7%、粗利益率は21.3%という商売をしています。食品も強化部門になるのでしょうか?
高田 企業の展開エリアや沿革の中で、取扱いを増やしてきたという経緯はあります。その結果、当社は、「調剤も食品も強いドラッグストア」の地位を確固たるものにしてきました。
ただし、同業各社のほとんどが食品に力を入れ始めた中にあって、食品が今後も永続的に差別化できる部門になりえるとは考えていません。
同業者のいくつかは、生鮮食品を扱ったり、廉価販売のみに必死になっているけれども、私はこの土俵に乗ったところで意味がないと考えています。
たぶん、時代も私たちに生鮮食品の取扱いや食品の廉価販売を求めていないと思います。しかも食品市場は、シュリンクしているにもかかわらず、取扱い企業は増加する一方であり、競争は激化するだけです。
──それよりも、いいマーケットがある。
高田 そうです。さきほどお話ししたとおり、超高齢社会にフィットした質量ともに期待できる市場が目の前に開けているわけですから、むしろ、その新しい市場に向けての商品を開発していきたい。
リアル店舗を展開する以上、店舗数を増やさないことには株式市場は認めてくれません。同じマーケットの中で、同業他社が同じ動きをするわけですから、1店舗当たりの売上高が減少していくことは必至です。ということは、従来型の売上至上主義では、行き詰りが見えているわけです。
そこでシフトしなければいけないのは、利益重視主義です。粗利益率をしっかり確保しなければいけませんから商品開発は不可欠と言わざるをえません。
ですから、私たちもユニクロ(山口県/柳井正社長)さんのようにSPA(製造小売業)型商品をいかに開発できるかにかかってきていると思います。全商品を対象にするのではなく、得意の分野でSPA形式を導入すればいい。
幸運なことに、当社の大株主にはイオン(千葉県/岡田元也社長)さんがありますので、プライベートブランドであれば、イオントップバリュ(千葉県/仲矢長蔵社長)さんに協力を仰いで、製造してもらうことができます。
ただ、それだけでは不十分だとも考えています。「差別化をもって戦わずして勝つ」というのが当社のスローガンですが、その意味で言うなら、市場に現存しない商品を製造・販売していくことも考えています。
この部分においては、医薬品の開発は非常に難しいので、健康食品の分野に傾注していきたい。医薬品と同等レベルに近いところまで効果を期待できる健康食品を開発することは可能です。成分構成を変更したり、新しい成分を使用したサプリメントを開発したりと、もう実際に取りかかっています。