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再び2012年も節電需要が大きなトレンドに=アイリスオーヤマ 大山 健太郎 社長

過去の常識にとらわれないイノベーション(革新)と「ユーザーイン発想」のものづくりによる需要と市場の創造によって大躍進を遂げているのがアイリスオーヤマ(宮城県)。出身業種であるプラスチック製造業という枠にとらわれず、あらゆる素材やカテゴリーの製品を自社工場で生産している。現在は、家電量販店やドラッグストア、食品スーパー、ネット通販などへの販売チャネル拡大や、LED照明事業の展開など、なお新しい挑戦を続けている。ゲームチェンジャーの1人である大山健太郎社長に2012年度の諸策を聞いた。

震災被害から急速復旧

──2011年度は、3・11の東日本大震災、その後の福島第一原子力発電所からの放射能流出、と大災害が続き、未曾有の年度となりました。

アイリスオーヤマ代表取締役社長 大山 健太郎 おおやま・けんたろう 1945年、大阪府生まれ。64年、大山ブロー工業所代表者に就任。91年、アイリスオーヤマに社名変更。現在、同社、代表取締役社長。

大山 アイリスオーヤマも角田工場(宮城県)、宮城県内に14店舗を展開するホームセンター(HC)の「ダイシン」が大きな被害を受けました。ダイシン矢本店に至っては、店内に津波が押し寄せ、半年ほど店舗を営業することができませんでした。

 従業員の中からは3人の犠牲者が出ました。また、たくさんの従業員が一時的に避難所暮らしをせざるを得ないような状況に追い込まれました。

 そうした状況を目の当たりにして、「アイリスオーヤマの優先課題は何か?」と非常に悩みました。突き詰めて考えたところ、当社は被災者の方々が必要とする製品をたくさん製造しており、当社のいち早い復旧が被災地および東北地方の活性化につながると判断しました。そして、「復旧第一で仕事に取り組んで欲しい」と従業員にお願いしたのです。

 「ダイシン」には、3月12日の早朝から、何百人という多くのお客さまが並び、長蛇の列をつくりました。すべての店舗の電気が点かない。店舗の什器は壊れ、商品は散乱し、一部では天井が崩落しており、壁が崩れるなどのひどい状況にあったにもかかわらずです。

 そこで「ダイシン」の従業員は、お客さまが必要とする商品を店の外に並べて、販売を続けました。店舗を1時間でも早く開けるように指示を出し、角田工場から200人を超える従業員を「ダイシン」の店舗に派遣して復旧活動に努めました。

 その甲斐あって、電気が流れ始めた瞬間から、「ダイシン」の店舗を全面的に再開することができたのです。

 地域の方々からは「ありがとう」という言葉を超え、「助かった」と感謝の声をたくさん頂戴しました。角田工場も電気が流れたところで試運転をスタートさせ、水道が回復したときには、フル稼働させることができました。宮城県内でも屈指の速度で再稼働することができた工場と自負しています。

LEDが絶好調!

──10年7月に単行本『ピンチはビッグチャンス』(ダイヤモンド社刊)を上梓しています。46年間の社長業を振り返ったときにアイリスオーヤマはピンチがあった翌年には常に大きく飛躍発展してきた。そのことが単行本のタイトルになっています。

大山 まさか、発刊8カ月後にこんなピンチの状況が訪れるとは夢にも思っていませんでした。そして、今回の大災害でも「ピンチはビッグチャンス」を体現しました。

 とくに春以降は、節電需要に対して積極的に商品開発を行いました。その代表格は、空気をかき回して室内温度のムラをなくすサーキュレーターで年間100万台のペースで販売しています。一昨年から注力してきたLED(発光ダイオード)照明も好調です。11年3月末の段階で中国の大連工場に飛び、増産計画を立てるなど迅速に対応したからです。

 その結果、アイリスオーヤマの11年度の売上高は1000億円(対前年度比17.8%増)を達成することができました。営業利益高は92億円(同34.1%増)と過去最高の数字を達成しています。経常利益高は、29年来の株安による評価損、東日本大震災の特別損失などがあったために残念ながら対前年度比ではマイナスになってしまいました。

──すでに12年度に入ってから丸3カ月が経過しています。これから、消費はどんな動きを見せると考えていますか?

大山 まず、11年度以上に節電需要が大きなトレンドになると予想しています。全国規模で原子力発電所が再稼働できない状況が続く中では仕方のないことであり、電気料金もあがると予想できます。

 また、市場規模はそれほど大きくはありませんが、防災需要も確実に拡大するものと考えられます。

──その中で、LEDは国内家庭用電球では個数(家庭用)ベースで約20%のシェアを獲得し、ナンバーワンのシェアを握るに至っています。また、チェーンストア企業を中心にたくさんの店舗や事業所でアイリスオーヤマのLEDが導入されています。

大山 照明業界全体で年間2000万球と言われているLED市場ですが、アイリスオーヤマ1社で年間1200万球の生産体制を整えています。「家、まるごと、LED」をキャッチフレーズにして1万2000店舗の店頭で訴求しています。今年、とくに期待しているのは家庭用の「LEDシーリングライト」です。

 一方、オフィスや店舗の需要に向けては直管形LEDを月産100万本体制に切り替えています。11年4月には米国ゼネラル・エレクトリック社との販売契約を締結し、5月からは同社製品を「エコルクス プロ」シリーズのラインアップに加え、販売をスタートさせています。

 11年3月の段階でカタログに掲載されていたLEDは200アイテムに過ぎませんでしたが、11年の9月には1200アイテムを揃えるに至り、現在はさらに2600アイテムになっています。

 発光効率も従来の80lm/wから100lm/wに改善することができています。また、演色性についてもまったく問題のないレベルになっています。量産効果によって、コスト削減を図ることもできています。

 この結果、さらなる高性能とリーズナブルプライスを実現できるようになっていますので店舗や事業所などの法人需要はさらに動きが大きくなるものと考えられます。実際に多くの注文が殺到しており、生産が間に合わず、即納できないような状態が続いています。

 そして、今年はLED照明だけで売上高350億円を達成したいと考えています。実に11年度の3.5倍の数字になります。

《スマートライフ》を提唱する

──節電ということでは、《スマートライフ》という考え方を提唱しています。

大山 日本の電力は余っています。ただしピーク時に不足していることが問題なのです。ということは、少し柔軟に頭を使えば、原子力発電所を動かさなくとも、太陽光・地熱・風力・水力に頼って新しい投資をしなくても、われわれは今までどおりの生活を送ることができるわけです。

 たとえば、現在、使用電力の3割は照明用に使われていると言われています。これを半分にすることができれば、それだけで全体の15%をカットすることができます。これは従来の照明をLEDに切り替えるだけで達成できる数字なのです。

 また、昨夏の自動車産業のように土・日曜日に製造業の工場を稼働させれば、ピーク時の電力需要を削減することは、そんなに難しいことではありません。役所にしても、交通機関や外食業、小売業と同じサービス業であるのですから、土・日曜日に窓口を開けたりするなどの工夫があれば電力使用の分散化につながるはずです。そんなふうに、ちょっと頭を切り替えて、賢く社会の仕組みを変え、電力需要を分散できる仕組みを社会全体でつくればいいのです。

 これから人口減少がどんどん進んでいく日本にあって、使えないほどの量の電気をつくる必要性はありません。そういう理由から、私は、最近、《スマートライフ》という考えを盛んに提唱しています。「賢い生活の仕組みを考えよう」という意味になります。

 過去の延長の生活スタイルを変えないままに、電力不足にかこつけ、施設増設をするのではなく、現在の電力を無駄にすることなく、賢く使い切れば、ちゃんとした生活は送れると考えます。

さまざまな分野で存在感みせる

──実業に話を戻しますと、11年7月1日にヘルスケア事業部を新設しています。

大山 そうです。H&BC(ヘルス&ビューティケア)、化粧品、サプリメントなどを扱う部門で、ドラッグストアやコンビニエンスストア、食品スーパーなど販売チャネルの拡大を図ることができています。

 今年は商品開発ならびに販売促進をさらに強化していきたいと考えています。「とうもろこしのひげ茶」を中心とする健康飲料群が非常に好調で、モデルの道端アンジェリカさんがTVCMで訴求してくれます。

 従来、当社はプラスチック収納を軸に企業規模を拡大してきました。しかし、過去の商品だけではなく、新しいニーズに合った商品を提供することによってさらなる成長を果たしていきたいと考えています。

 たとえば、インテリア事業部では、寝具にフォーカスを絞って商品開発と品揃えの強化に努めているところです。価格帯はロワー(低価格)ではなくミドル(中価格)。「メイド・イン・ジャパン」にこだわり、西川リビングと組みながら、新素材を使用した商品開発に注力しているところです。

 そしてアイリスオーヤマとしては、12年度に1350億円の売上をめざします。つい十数年前の当社の年商をたった1年間で上乗せすることになると考えると隔世の感があります。

 政治も経済も先行きは不透明ですが、アイリスオーヤマは、このように大きな目標を掲げて邁進していきたいと考えています。

──最後に現在22社あるアイリスオーヤマグループの企業動向はどうですか?

大山 ほとんどが好調に推移しています。日本国内では、ネット通販のアイリスプラザカンパニー(宮城県)、アイリスチトセ(宮城県/大山富生社長)、ダイシンカンパニー(宮城県/村井幸一社長)などは2ケタ成長しています。

 中国国内の店舗網も増え、順調に拡大しているところです。

 グループ全体の売上高は10年度は2000億円弱でしたが、11年度は2350億円(対前年度比18%増)ということで大きく伸ばし、営業利益高は200億円(同47%増)を計上しました。

 10年度は「先手必勝の経営」、11年度は「挑戦する年」とアイリスオーヤマのモットーを定めてきました。12年度は「飛躍をする年」です。引き続き頑張っていきたいと考えています。