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SMは着実に地域シェアを拡大することでしか勝ち残れない=アークス 横山清 社長

北海道を地盤に食品スーパー(SM)を展開するアークス(北海道札幌市/横山清社長)の2011年2月期連結決算は、売上高3036億800万円(対前期比12.1%増)、営業利益92億7200万円(同4.9%増)で、10期連続の増収増益だった。今期も引き続き増収増益と、強気の計画を打ち出している。マーケットが縮小する中でも売上を拡大し、北海道でのシェアを着実に高めている。

高い生産性とシェア拡大は「車の両輪」

株式会社アークス代表取締役社長 横山清 よこやま・きよし 1935年生まれ。北海道出身。60年、北海道大学水産学部卒業。同年、野原産業入社。61年大丸スーパー(現ラルズ)入社。85年、同社代表取締役社長。89年、ラルズ代表取締役社長。2002年、アークス代表取締役社長に就任。07年、ラルズ代表取締役会長に就任。

──人口減少や高齢化などによる需要減少に加え、オーバーストア化で競争が厳しさを増しています。この状況をどのようにとらえていますか。

横山 経済活動の大原則として、競争に打ち勝つためには相手よりも優位でなければなりません。競争優位をつくりだす基本戦略や手法はさまざまあります。ハーバード大学教授のマイケル・ポーターが説いた、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つの戦略がとくに有名ですね。

 小売業の場合は、高い生産性を実現し、それによって競争を勝ち抜いていくことが肝要になります。高い生産性を実現するためにはシェアを高める必要があります。シェアが高まらないと、高い生産性を持つ企業群が存在しえないと考えるからです。これは「車の両輪」です。

──流通業界は、大手を中心に市場の寡占化が進んでいます。

横山 ただ、高いシェアの獲得を実現できている大手企業といえども、新業態の登場や財務体質の悪化、さらには天変地異などで、一瞬にして競争から脱落してしまう可能性があるので注意しなければいけません。経営破たんしたダイエーさんやマイカルさんなど、高いシェアを誇っていた企業でさえ安心はできないものなのです。

 一方、業態別のシェアは、分母に設定する数値が何であるかによって大きく見方が異なってきます。分母を同一業態の全国売上高とすれば、総合スーパー(GMS)やコンビニエンスストア(CVS)などでは大手企業の市場占有率が高まっていると言えます。

 SM業態の場合、全国売上高を分母において見ると、寡占化はあまり進んでいないと言えますし、将来的にも大きくは高まらないと思います。

 しかし、SMの売上高を地域ごと、すなわち分母に地域売上高をおきながら見ていくと、上位企業のシェアはかなり高まっていると言えます。

──シェアを高める、すなわち売上高を伸ばすためには、競合店のお客を自社の店舗に取り込む仕掛けが必要になります。

横山 そうです。集客を図ってシェアを拡大する(=売上を伸ばす)最も簡単な方法は、ディスカウント、つまり安売りです。リーマンショック後からはとくにその傾向が顕著になりました。ただ、多くの企業は、バスタブに利益という水がたまっていないにもかかわらず栓を抜いてしまったようなもので、どんどん利益を減らしてしまいました。もともとSMは生産性が低い体質なのに、利益を減らして大安売りするという事態が多く出現したのです。身を削っての安売り競争は避けなければなりません。

北海道のSMシェアは30%を取る

──北海道では、アークスグループ、コープさっぽろ(北海道/大見英明理事長)、イオン(千葉県/岡田元也社長)グループなどの競争が峻烈を極めています。アークスグループのSM業態内シェアは、どこまで高めることができると考えていますか。

横山 北海道でのSMシェアは、30%ぐらいまでは高めることが可能だと考えています。前述のとおり、ただでさえ生産性が低いSM業態は、シェアを高めなければ競争優位な状況をつくれないですし、勝ち残ってもいけません。

 SMは、同一フォーマットでナショナルチェーンを構築するのは難しいと考えています。だから今は、まず北海道でのシェアを確実に高め、圧倒的な競争優位性を身につけるしかありません。

 北海道は、四方を海で囲まれているという特性があり、規模的にはスーパーリージョナルエリアだと言えるでしょう。クルマや電車で5~10分圏内に200万人が住むといわれる札幌エリアにおいて、当グループは15%ほどのシェアがあります。北海道の人口の約40%が札幌エリアに集中しているので、ここでのシェアを高めるということは全道シェアを高めることと同義なのです。

 北海道の競争環境は、プレイヤーが交代しながらどんどん厳しくなってきました。

 簡単に競争の歴史を振り返ると、北海道には40年近く前、長崎屋さんが大手として初めて進出し、その後、ダイエーさんや西友さん、イトーヨーカ堂さんが続きました。イオングループさんは大手としては最後に進出してきました。

 最盛期の長崎屋さんは、北海道で1000億円近くの売上があり、全売上高の20%ほどを北海道の売上が占めていました。イトーヨーカ堂さんのピーク時の売上は北海道だけで1000億円を超えていたと記憶しています。それが今では、700億円台になっています。

 大手企業はこれまで、他を圧倒する大規模な商業施設をデンと構えることが多かったのですが、もともと少ない商圏人口をフルに集客しても採算が合わないような店舗をつくっても失敗してしまうわけです。

 しかも、北海道は全国平均と比べて少子化や高齢化、人口減少が進むスピードが速い。生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が減って経済行為が停滞すれば、需要はおのずと減少します。

 ということは北海道のマーケットが再び拡大することは期待できないわけで、むしろマイナス成長の中でどうするのかを考えなければなりません。

 しかしながら、競合店が1店なくなれば、そのエリアで展開している他の店舗の売上は2割ほど増えます。その繰り返しで、高い生産性を持ち、競争優位性のある店舗、企業は残っていくわけです。つまりマーケットが縮小していっても、店舗あるいはその地域に根差す企業がシェアを高めるということが起こるわけです。私はこれを「縮小拡大」現象と命名しました。この現象は今後、多くの産業で見られるようになると思います。

──SM同士の競争に加えて、他の業態との“パイの奪い合い”も激しくなっています。

横山 確かにホームセンター(HC)やドラッグストア(DgS)が食品をどんどん取り扱うようになり、SMの売上は“食われて”います。これは全国的な傾向と言えます。

 当グループはカインズ(群馬県/土屋裕雅社長)のエリアフランチャイジーとして、カインズホーム大曲店(北広島市:2008年6月開業)を運営しています。なるべく早期に「3店舗100億円」体制にし、HCやDgSに取られた食品の売上を非食品の分野で取り返したいと考えています。

 このように、SMは、SMのみならず、HCやDgSなどとも競争をしなければならない時代になりました。そういった意味では今後、SM企業がHCやDgSを展開し、 食品と非食品を合わせた地域トータルのシェアを高めていく戦略が必要になってくるのではないでしょうか。

「異体同心」のムカデ経営で
「創発現象」を起こす

──競争が激しさを増している中で、アークスグループは09年10月に現在の東光ストア(札幌市/加固正好社長)を傘下に加えるなど、着実に企業規模を拡大しています。

横山 そうです。アークスグループには、SM事業会社として、ラルズ(札幌市/齋藤弘社長)、東光ストア、福原(帯広市/福原朋治社長)、ふじ(旭川市/六車亮社長)、道東ラルズ(北見市/渡辺友則社長)、道北ラルズ(旭川市/守屋澄夫社長)、道南ラルズ(函館市/馬場利昭社長)の7社があります。一つひとつの企業では大手と渡り合えなくとも、7社がそれぞれの自主性を重んじて1つにまとまり、北海道でどのような力を発揮できるのかということで、これまで「八ヶ岳連峰経営」と呼んで取り組んできました。11年2月期末のグループ店舗数は203店、合計売上高は3036億円までになっています。

 「八ヶ岳連峰経営」と同時に、昨年から「センチペイド・オペレーション」という言葉を使い始めました。センチペイド(centi-pede)とは「ムカデ」のことです。ムカデは「後退しない」「(客)足が多い」縁起物としても古来扱われます。協業の理念である「異体同心」を体現したような生き物でもあります。どのようにひっくり返してみてもすぐ元の状態に戻るし、たくさんある足も一糸乱れず動きます。戦闘的で、かつ、戦略的な意味を込めて「センチペイド・オペレーション」と名付けました。

 「異体同心」とは、私がかねてから述べている「創発現象」を惹起するベースになります。「創発現象」は、一つひとつの小さな行動や動きが相互に影響し合って、クリティカル・マス(臨界点)に達したとき、予想を超えた構造変化や創造が誘発されることです。

 逆に、「一体同心」になってしまうと、すべてが同質化してしまい、「創発現象」は起きにくくなります。

 「創発現象」とはある程度の「マス=塊」がなければ起きないと考えています。私はクリティカル・マスという言葉を使用しています。ある臨界点を突破して爆発する。これは爆発しただけで終わりではなく、大きなエネルギーを放ちながらどんどん状況が変わっていく。

 企業経営に理想形はありませんが、「創発現象」を絶えず意識しながら、外見はバラバラの企業群が混在しているようであって、後々に結局はすべての企業が一体であったかと思われるような企業経営をめざしています。

──これまでのグループ経営の中で、具体的な「創発現象」としてどのようなものが出てきましたか。

横山 03年にユニークショップつしまからSM事業を譲り受け、04年に子会社として新たなスタートを切った道南ラルズは当初、売上高160億円ほどで、債務超過に陥っていました。人材流出も相次ぎ、同業他社からは「有能な人が残っていない」とさえ言われました。それが今では売上高210億円、6億~7億円の利益を計上するまでになりました。グループ7社のうち、最も元気のいい企業の1つになっています。アークスグループから従業員を出向させ、道南ラルズの社員と一丸となってさまざま試行錯誤する中で、どんどん何かが芽生えていったと言いましょうか、企業そのものが大きく変わっていったのです。パートナーさんの資格検定試験の合格者数は、業界トップクラスまでになっています。

 これは1つの「創発現象」だととらえています。

 函館市のマーケットが上向き、劇的に変わったということはありませんので、企業内に創発が起こった結果だと自負しています。

次なる目標は売上高5000億円!

──次の目標はグループ売上高5000億円に据えています。これは北海道内で達成するということですね。また、たとえば、東日本大震災で大打撃を被った東北地方の小売企業から資本注入の要請があった場合、引き受ける可能性はありますか。

横山 グループ売上高5000億円、北海道のシェア30%という数値は、アークスグループの10年後を考えると無理のない経営計画であると考えています。

 また、東北地方の小売企業と資本提携を結ぶことは、可能性としてはあります。ただし、単に「経営に困っているから資本を入れて欲しい」ではなんの意味もないと考えています。もう一歩踏み込み、将来的に、ともに手を組んで大きく発展できる可能性があるのであれば、東北地方といわず、日本全国どの地域の企業とも連携していくことはあり得るでしょう。