メニュー

店舗にMDや売価設定の権限を移譲、個店経営で良質スーパーを追求=東武ストア宮内社長

東武ストア(東京都/宮内正敬社長)の2011年2月期連結業績は、売上高811億6300万円(対前期比0.4%減)、営業利益8億3400万円(同40.1%減)、経常利益10億6700万円(同34%減)、当期純利益7億6700万円(同66.4%減)の大幅減益となった。2010年5月からスタートした宮内新体制のもと、12年2月期は増収増益をねらう。

「リーマンショックのしわ寄せが一気に出た決算」

東武ストア 代表取締役社長 宮内正敬 みやうち・まさよし 1948年茨城県生まれ。72年一橋大学商学部卒業。同4月、丸紅入社。03年5月、東武ストア取締役業務本部副本部長に就任。その後、常務取締役業務本部長、東武フーズ取締役社長、東武ストア専務取締役業務本部長を歴任。10年5月から現任。

──まず、東日本大震災の被災状況や3月以降の足元の状況について教えてください。

宮内 地震発生後の翌12日には、物理的な被害の大きい2店舗を除いてすべての店舗の営業を再開できました。食品スーパー(SM)の佐倉石川店(千葉県佐倉市)では天井が落下しましたが、1週間ほど休業して修理を施し、19日には営業を再開しています。総合スーパー(GMS)の「かぞマイン」(埼玉県加須市)は、スプリンクラーからの水漏れが発生しましたが被害状況は軽微であり、休業したのは2日間でした。

 震災後の既存店の売上は、3月は「買いだめ・買い占め」の影響から対前期比3.6%増と前年実績をクリアすることができましたが、4月は同3.5%減、5月は3.3%減、6月は3.6%減(20日現在)と、前年を割るかたちで推移しています。お客さまの買い控えが続いていると受けとめています。

 客単価は3月が同5.4%増、4月は1.2%減となっています。5月は2.7%増となっており、前期から取り組んできた商品政策(MD)や価格政策の見直しが徐々に効いてきた証しだと受けとめています。

 だだ、客数は落ち込んでいます。東武鉄道(東京都/根津嘉澄社長)沿線に多くの店舗を展開する当社は、乗降客数の増減が売上に直結します。朝と晩の通勤・通学の乗降客数に変化は見られませんが、日中の乗降客数が大きく減っています。地震がまた発生したら大変だということで、とくに年配のお客さまは外出を控えているようです。

 今後、徐々にではありますが景気は上向いてくると見ています。震災の復興からモノの需要は高まりますし、世界的な原材料の高騰から物価はだんだんと上がってくるでしょう。食品小売業界も多少は上向くのではないでしょうか。

──2011年2月期連結決算は微減収大幅減益になりました。

宮内 一言で表すと「リーマンショックのしわ寄せが一気に出た決算」でした。景気低迷による売上減少を挽回するために打った策がほとんど機能しなかったことが原因です。

 一例を挙げるなら、競合店との差別化を図るために実施していた「高鮮度宣言」です。たとえば刺身は売場に並べてから4時間を経過すると値引き販売し、8時間後には廃棄すると宣言しました。その結果、何が起きたのかと言えば、店舗は値下げロスや廃棄ロスが発生することを恐れて商品をつくらなくなってしまいました。売場に商品が並ばなくなるわけですから、売上は減少し、粗利益額も大きく減らしてしまいました。

 また、リーマンショック後、大手小売業は低価格プライベートブランド(PB)商品を相次いで発売、拡充しました。当社には電鉄系小売業が加盟する八社会(東京都/木下雄治社長)のPB「Vマーク」商品がありますが、売価が決まっているPBをさらに低価格で販売することはできません。

 だから認知度が低いメーカーの低価格商品を導入しました。しかし、集客に結びつかず、売上を減らしてしまった店舗が続出しました。導入した商品はもともと値入れ率も低く、結果的に粗利益額を大きく減らしただけでした。

 さらに、ちょうど改修期を迎えていた大型店が6店舗ありましたので、総菜部門の厨房拡充などをはじめとした生鮮強化型の改造を施しました。しかし、店舗オペレーション上、人件費が大幅に増加し、売上が大きく伸びなかったこともあって利益を大きく減らしてしまいました。

 このようにリーマンショック後に打ち出した施策がことごとく機能せず、裏目に出てしまったのが11年2月期の決算でした。12年2月期は、前年下期から利益が改善してきたこともあり、増収増益を計画しています。

「高鮮度宣言」とMDを見直す

──10年5月に社長に就任してからは政策の軌道修正をしているのですか?

宮内 そうですね。「高鮮度宣言」は社長就任直後に見直しの方針を打ち出し、7月から取りやめています。店長会議で説明するなど、1ヵ月ほどかけて「なぜやめるのか」を周知徹底しました。

 すると11年2月期上期には対前期比5.4%減だった売上高が、下期は同2.1%減と3.3ポイント(pt)改善しました。粗利益率は上期の22.3%から1.2pt改善し、下期には23.5%となりました。前述した負のスパイラルからは抜け出せたと考えています。

 

 また、MDについても見直しました。当社は品揃えについて、競合店が取り扱っていないような高質商品を「金」、NB(ナショナルブランド)商品を「銀」、PB「Vマーク」商品を「銅」と呼んでいます。リーマンショック後から品揃えした、認知度が低いメーカーの低価格商品に「鉄」と名づけていましたが、この「鉄」の取り扱いをやめました。その結果、客単価は徐々にではありますが上昇傾向にあります。

──店舗運営の方法も大きく変更しましたね。

宮内 そうです。当社が展開する店舗は、売場規模をはじめ、立地や競争状況によって売上や利益がそれぞれ異なります。したがって本部が決めた全店一律の施策ではなかなか競合店に対応できません。そこで各店舗が競争環境によって異なる戦術をとる「店舗ごとの戦い」の施策を打ち出し、店舗へ大幅な権限の移譲を行いました。

 品揃えは基本的に商品部が立案しますが、売価の設定やどの商品を実際に導入するのかは店舗の判断で行えるようにしました。

 経費も自店でよりコントロールできるようにしました。たとえばパートさんを増やして単品を売り込む、またはパートさんを少なくするなど、店長権限でできるようにしています。競合店が低価格を強く打ち出すなら売価を引き下げる──など、店舗が競合状況によって自ら戦術を考えて動ける態勢にしています。

営業幹部会議で店舗をしっかりサポート

──個店への権限移譲を進める中で、店舗(店長)の評価はどのように行っていますか?

宮内 営業利益予算の達成度合いで評価します。これまでの予算は、本部がはじめにベースとなるものをつくっていました。今期は、まずは店舗で予算を作成してもらい、本部とすり合わせを行ったうえで目標値を設定するように改めました。

 店長に売上だけでなく、粗利益額、経費にも責任があるとことを再認識してもらい、営業利益に対する意識を高めることがねらいです。これまでも店長の評価は営業利益の予算達成が重要項目でしたが、よりいっそう重きを置いたかたちです。

──本部の機能はどのように変化しているのですか?

宮内 商品部を含めて、本部の人員がしっかりと各店舗をサポートする態勢を敷いています。

 たとえば、これまでのグループマネージャー(GM)会議に代えて、店舗ごとの営業利益の改善策を検討する営業幹部会議を10年9月に創設しました。

 従来のGM会議は、商品部や店舗運営部、GM、店長が出席し、前週の取り組み内容の確認、今週の指示事項の徹底をメーンした会議でした。たとえば、「○○を売り込もう」など、単品の販売計画を主に話し合う場であり、利益の確保という視点が欠けていました。

 そこで営業利益の落ち込みが大きい店舗を本部が選定し、具体的な改善策を議論するように会議の内容を改めました。本部から具体的な指示を出し、商品部が中心となって店舗をフォローします。そして1ヵ月後に実績数値を確認し、改善が見られなければ引き続き手を打ちます。商品部には部門ごとの粗利益額予算の責任を持たせているため、店舗と商品部の連携強化にもつながります。

 営業幹部会議は、売場規模や業態別に全店舗を6グループに分け、毎月1回、各グループから1~2店選定して合計10店ほどの改善策について話し合っています。前年度の下期は営業利益の改善が見られましたので、今期も継続します。

商品、価格、サービスの良質化すすめる

──さて、売上高1000億円、経常利益30億円の達成をめざす「新中期経営計画“ATTACK 1000”」は来年度が最終年度になります。計画に修正はありますか。

宮内 既存店売上高が前年を割っており、多数の新規出店や大規模なM&A(合併・買収)を行わないと達成は現実的には厳しい状況です。12年2月期はすでに新店を3店舗オープン済みで、今後の出店予定は現時点ではありません。したがって売上高1000億円、経常利益30億円の達成は困難です。

 ただし、売上高対経常利益率3%の達成は不可能ではありません。3%達成の目標は継続しながら、売上高目標については13年2月期に入ってから見直したいと思います。1000億円にはこだわらず、利益率を重視する方向でいこうと考えています。

──今後の出店戦略や売場づくりの方向性について教えてください。

宮内 東京都や埼玉県、千葉県の1都2県に引き続き出店していく方針に変更はありません。

 当社が展開する店舗の標準サイズは売場面積300~350坪ほどです。

 そのほか、社内では「スーパーコンビニ」と呼んでいる100坪前後の駅前小型店舗が4店あります。今期中に店舗レイアウトやMDに大幅な変更を加え、都市型小型店の実験を行う予定です。具体的には、小容量、使い切りパック、個食サイズ、即食性の高い商品を取り揃え、利便性を高めた“コンビニ使い”型の売場にする方針です。

 当社の店舗は駅前立地が多く、賃料は他のSM企業に比べて高めです。競合店に低価格で勝負を挑むことは得策とは言えません。したがって、エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)ではなく、ハイ&ローの特売で売場に変化を出していきます。

 当社が進むべき方向は、「商品の良質化」、「価格の良質化」、「サービスの良質化」に磨きをかけ、「良質スーパー」を追求することです。それには教育が最も重要なポイントになります。「ホスピタリティ研修」を始め、階層別教育を着実に実施していきます。

 今後も地域のお客さまに愛される「良質スーパー」をめざします。