日本にも波が到来! リテイルメディアに取り組む 小売企業が絶対に押さえておきたいこと
米国では離脱する
出稿企業も多い
――米国の先行例では、リテイルメディアは離脱する出稿企業が多いという課題もあるようです。なぜでしょうか。
内山 購買にダイレクトにつながるような体験価値が、ネット広告と比較してまだ弱い点が理由に挙げられます。たとえばECサイト「Amazon.co.jp」である商品を買おうとすると、その類似商品のスポンサード広告がすぐ出てきて、比較検討やついで買いを促します。一方で店舗では、プッシュ配信をする、デジタルサイネージで関連商品の映像を流すくらいしかできず、消費者に連続的なアプローチを図れないのが現状です。
――この辺りは技術革新が期待されますね。
内山 はい。手に取った商品をカメラで感知して、目の前にあるサイネージでその関連情報を流すなどの技術はすでにあり、ネット広告と近しいアプローチは可能になりつつあります。
ですが、単純にネット広告と同じ体験をめざすのではなく、店舗ならでは体験価値をめざすべきだと考えます。「せっかく店に来たからには1点ではなく何点か買いたい」という、消費者心理から生じる非計画購買をいかに取り込めるかがポイントです。
国内でも進んだ取り組みをしているのがトライアルホールディングス(福岡県)さんでしょう。スマートカートを使って、近くにあるキャンペーン中の商品をモニターに表示し、購入すればその場でポイントバックするというような、連続的なアプローチで非計画購買を促す仕組みをすでに構築されています。
手を組む事業会社は
1社じゃなくていい
――今後、小売企業がリテイルメディア事業を広げるには何が必要でしょうか。
内山 事業を展開するうえで重要になるのが、購買データと人流データです。この2つのデータしっかり揃えることが求められるのですが、これがままならない企業が非常に多いです。
こうしたなか、どこのデータ事業会社と手を組むかという選択に直面することになるのですが、必ずしも提携先は1社である必要はないと思っています。たとえ、すでに他のリテイルメディア・ネットワークに乗っているとしても、データの量、精度の高さ、テレビ局との連動性の高さなど、各事業者の特性によって、自社の施策ごとにデータを使い分けるような動きがあるほうが、国内のリテイルメディア全体の発展につながると考えています。
――自社の購買データの整理はどのように進めるべきでしょうか。
内山 とくに生鮮品を扱う食品スーパーは、購買データの管理が複雑で、一部大手を除いた多くの企業にとっては、ハードルが高いようです。このような特性もあって、リテイルメディアは、標準化されていてデータが揃いやすいドラックストアやコンビニなどから発展してきた歴史があります。
今後データを活用していくには、整備体制を社内で構築すること、そのための人材の獲得・育成が必要です。社内に人材がいなければ、unerryのような会社が代行もできるのですが、他社に購買データを預けるのはなかなか心理的ハードルが高く、二の足を踏む会社が多いです。
データは宝にもリスクにもなる
健全性を見極める目を
――自社の購買データをリテイルメディアに活用すると、どのような効果があるのでしょうか。成功事例があれば教えてください。
内山 たとえば、あるメーカーが商品プロモーションをしたいと思った際、購買データも連携することで、購買履歴からその商品を購入する可能性が高いショッパー群を探して、デジタル広告やキャンペーン情報を届けることが可能になります。
たとえばunerryがデジタル販促をサポートしている某企業で実験したところ、興味深いことに、かつてはその商品を買っていたのに、買わなくなってしまった人が、少なくない割合で戻ってくるという結果が得られています。
――今後、リテイルメディアに取り組む小売企業にメッセージはありますか。
内山 やはりお伝えしたいのはデータについてで、とくにその安全性に気を付けるべきということです。データ事業会社の選定1つをとっても、法的に、業界規制的に使っているデータソースは本当に大丈夫なのか、きちんと検証している事業会社は実はまだまだとても少ないです。
データの取得・活用は、社会的信用に直結するもので、一度損なった信頼を取り戻すのは容易ではありません。また、問題が発覚すると、多くの視線を集めるのは、消費者にとって身近な小売企業であることが常といえます。なので、健全性の高い企業をきちんと見極めて、手を組んでいくことが重要です。