長引く新型コロナウイルス禍でリアル店舗が軒並み打撃を受ける中、国内に9施設を展開する「プレミアム・アウトレット」が好調だ。インバウンド需要の落ち込みを国内需要でカバーし、直近の営業収益はコロナ前の水準をも上回った。今秋には10年ぶりとなる新施設「ふかや花園プレミアム・アウトレット」の開業を控える。
2000年に「御殿場プレミアム・アウトレット」をオープンしてから20年あまり。その間、「アウトレット=安かろう悪かろう」のイメージを払拭し、独自のブランドと、単なる買い物体験を超えた「エンターテイメント体験」を築き上げてきた。その現在地と、今後の事業戦略について、事業会社の三菱地所・サイモンの山岸正紀社長に聞いた。
コロナ禍でも国内需要が堅調
プレミアム・アウトレットの2022年3月期 第4四半期(2022年1月~3月期)の営業収益は115億円。1回目の緊急事態宣言で全店の休館を余儀なくされた2020年4~6月期には57億円までに落ち込んだが、それ以外の四半期決算ではほぼコロナ前と変わらない営業収益を確保しており、他の商業施設運営会社と比較して、安定的な強さが目立つ。
国内に9施設あるプレミアム・アウトレットを統括する三菱地所・サイモンの山岸正紀社長は、「当社はアウトレットモールの中ではインバウンド集客に強みを持っていたが、感染が本格化した2020年以降はそのインバウンド需要がごっそり抜けてしまった。それでも、国内需要が堅調に伸びたことでインバウンドの落ち込みをカバーすることができた」と、安堵の表情を見せる。多くのリアル商業施設がコロナ禍で軒並み苦戦する中、オープンモールで感染リスクが比較的低く、車で気軽に行けるプレミアム・アウトレットは、旅行ニーズの受け皿としても多くの人手でにぎわった。
約10年ぶりの新施設「ふかや花園プレミアム・アウトレット」
コロナ禍を受け、雑貨や食器、調理用品、アスレジャー系のアパレルが堅調な売れ行きを見せるなど、売れ筋に変化はあったものの、「テナントの大幅なシャッフルは行わなかった」と山岸氏は語る。
もともと、プレミアム・アウトレットのビジネスモデルは「段階的な拡張によってお客さまに新鮮な価値を提供する」点にある。この2、3年の間にも鳥栖、御殿場、りんくうの3施設で、施設の拡張を実施。全体としては10%ほど施設面積を増やした。このコロナ禍にあっても特別なことはせず、従来どおりにテナントとの関係を維持し、施設の拡張を進めている。
その中で、2022年秋には、同社にとって実に10年ぶりとなる新施設のオープンを控えている。埼玉県深谷市の「ふかや花園プレミアム・アウトレット」だ。敷地面積17万6800㎡の巨大アウトレットモールが、関越自動車道「花園IC」から約3分の立地に出現する。
さらに、「(仮称)京都城陽プレミアム・アウトレット」(京都府城陽市)のオープンも予定しており、好調な業績を背景に出店ラッシュをかけているように映るが、「巨大商圏を有する大型商業施設はそういくつも作れるものではない」と、山岸氏は謙虚に語る。「アウトレットモール建設は、4、5年くらいの長期スパンで進める一大プロジェクト。出店ペースは落ち着いていくだろうが、新規施設の機会があれば検討していきたい」(同)
台頭するECにどう対抗する?
一方で、“四番バッター”だけではない、新たな業態にもチャレンジしている。それが、親会社・三菱地所とのシナジーを活かした、空港敷地内での新業態施設だ。2021年12月から 2022年2月にかけ、富士山静岡空港の敷地内に「プレミアム・アウトレット サテライト」を期間限定でオープン。次いで、2022年3月から5月まで、高松空港内にも「プレミアム・アウトレット サテライト」をオープンした。いずれもECサイトと連動したショールーム型の実験的施設だ。
EC事業への参入について、山岸氏は「ECが今後ますます伸びていくのは間違いない」と言いながらも、「サテライトはプレミアム・アウトレットの新たな出店形態や体験価値などを模索する実証実験が目的。その上で、プレミアム・アウトレットに行ったことがないという方の来場経験にもつながればと考えている」と、ECそのものが主眼ではないと強調する。「あくまでも、プレミアム・アウトレットという実施設のワクワク感や感動価値を重視する。ECが台頭したとしても、わざわざ出かけることで得られる価値がなくなることはない。単なる買い物ではない『体験価値』を極めることで、集客を伸ばせる余地はまだまだあると考えている」(同)。プレミアム・アウトレットが20年間をかけて築き上げてきた、独自の「体験価値」への強い自負がにじみ出る。
20年間築き上げてきた独自の「体験価値」
第1号店の「御殿場プレミアム・アウトレット」がオープンしたのは2000年。当時は「アウトレット=安かろう悪かろう」のネガティブなイメージがあったが、施設運営の努力を重ねる中で、「一流ブランドが手ごろなプライスで買える場所」「非日常空間の中でワクワクしながら宝探しができる場所」という独自のブランドを確立してきた。「『わざわざ行く楽しさ』はECでは提供できない体験価値。ゆえにECとは競合関係にはならない、とみている」(山岸氏)
「実際に足を運んで、発掘できる楽しさ」の新鮮さを維持し続けるために、各施設では地域の特色を出した独自の運営努力がなされている。一例として、「御殿場プレミアム・アウトレット」では、2022年1月から遊覧ヘリクルージングサービスを開始した。単なる買い物にとどまらないエンターテイメント体験を、9つの施設それぞれが常に生みだし続けている。
ECの台頭、製品のコモディティ化などを背景に、マーケティング界隈では「ただモノを販売するだけでは淘汰される」「これからはカスタマー・エクスペリエンス(CX)の時代だ」などと喧伝される。その「体験価値」の重要性に20年も前から気づき、「体験価値」を軸に独自のブランドを築き上げてきた。そこに、時代がようやく追いついたのかもしれない。
近年ではアパレル業界を中心に在庫過多に悩む企業は多く、サステナビリティの観点から在庫適正化が課題となっている。「プレミアム・アウトレットは都心から離れていることから、ブランドを毀損せずに在庫を販売することができる。また集客力も高く、新規顧客開拓にもなっているため期待されている」(同)
この20年の間に、「車で気軽に行けるエンターテイメント施設」として、家族やカップルで訪れる休日レジャーの定番となったプレミアム・アウトレット。これからも新たな「体験価値」で私たちを驚かせてくれることだろう。